2016年の最も印象に残ったオンラインソフトには、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクトの「Mitaka」を選ばせていただいた。このソフトは簡単にいえば“天文シミュレータ”なのだが、地上から星空を見上げる「プラネタリウムモード」に加え、いろいろな視点で宇宙全体を眺められる「宇宙空間モード」を備えており、天の川銀河中心のブラックホールを間近に見たり、宇宙そのものを“外側”から眺めたりといった、現実には絶対に不可能なことまで手軽に楽しめるのが凄い。
画面上に散らばった輝点はすべてが固有の情報を持った天体(主に恒星)で、そのうちの主要なものは、クリックすれば情報ウィンドウがポップアップして、種別(恒星、惑星など)、スペクトル型、HIP番号といった情報を確認できる。近傍まで一気に移動し、視野や距離を動かして周辺の天体を見るのは、ちょっとしたスペーストラベル気分だ。
そんなことができるのも、最新の観測データや理論的モデルをもとに、現在わかっている限りの宇宙の姿をできる限り再現しているから。つまり、写真を眺めるだけの二次元画像データ集的なものではなく、さまざまな方向から眺められる立体モデルであり、そこに時間の経過まで再現できる四次元の宇宙を見せてくれるのだ。
もちろん「全宇宙スケールではちょっと壮大すぎてついてゆけない」という方でもちゃんと楽しめる。「プラネタリウムモード」では、星座名や星座線を使った、誰にもおなじみの星空を見せてくれるし、2016年3月9日の日食を東京での部分食とインドネシアでの皆既食の二つで簡単に再現できるプリセットなども用意される。
また、太陽系内の惑星や太陽系の端っこのほうにある、一般にはあまりなじみのない外縁天体のサイズ比較、星の色と温度の関係についての比較図など、わかりやすい図鑑的な説明もいくつか盛り込まれている。
地球、月、火星、水星では地形データも提供され、地表観測モードで上空を飛びまわることもできるので、アポロ計画の跡をたどったり、現在進行中の有人飛行計画を先取りして、火星を探検してみたりするのもおもしろいだろう。
操作はマウスやキーボードのほかに、ゲームパッドにも対応。また赤青のセロファンを使った立体眼鏡や左右分割、上下分割といった立体視にも対応しているので、大型スクリーンを使った上映会的な楽しみ方もできる。
去る11月27日には「大学共同利用機関シンポジウム2016」の国立天文台ブースにおいて、VR版「Mitaka」の体験コーナーが設けられたとのこと(詳細はこちら)なので、そう遠くないうちに手軽に宇宙をVR体験できる日が来るのではと、いまから待ち遠しい。