2013年に最も印象に残ったソフトとしてご紹介したいのは「DashWare」だ。ソフト自体はかなり前(サイトのクレジットから見て2009年ごろ?)に登場しているが、日本語には未対応で、まとまった情報もあまり見当たらない。筆者自身もつい最近使いはじめたところで、理解不足な部分も多々あるが、編集部にお願いして、この機会に取り上げさせていただくことにした。このソフトの特徴は、F1レースなどではおなじみの速度、スロットル開度、コース図といった画面情報を自分で簡単に作れるところ。つまり、ビデオカメラで撮影した映像の上にスピードメーター、回転計、高度グラフなどの情報をオーバーレイ表示した新しい動画ファイルを生成する。
元になるデータはGPSロガーで記録されたファイルを使用。筆者の場合、スマートフォン用アプリで記録したサイクリングのログをクラウドサービス上に登録しているので、そこからGPX形式でファイルをダウンロードしている。もちろん、ソースとなる動画を撮影するためのカメラも必要だ。GPS搭載のビデオカメラがあれば、後述するデータの同期作業が不要になるはずだが、筆者はまだ試す機会がない。
操作の簡単な流れを説明しておくと、まずプロジェクトファイルを作成して、合成したい動画とGPSのログを登録しておく。GPSログはマップの形で表示される。続いて、動画上から切り出したいポイント(開始点と終了点)を探し、それに対応するポイントをGPSログの方でもセットする。これにより、最終的な動画に不要な部分(サーキット走行でいえばピットレーンからのコースインなど)をカットすると同時に、動画とログの動きを一致させることができる。
同期位置を決めるためのマップは簡単なもので動きも粗いため、正確な位置を割り出すのが難しいが、それを補うのが「Analysis By Time」というタブだ。ここにはGPSログの解析結果がチャートとして表示されるため、「どこでスタートや一時停止したか」「この時点で高度が何mだったのか」といった詳しい情報がわかる。現在の仕様では、チャート上から同期ポイントを指定することはできないらしく、時刻を確認した上で同期用マップに戻ってから設定を行っているが、ここはちょっと面倒だ。
動画上に表示させたい情報はGuage Toolbox(ゲージツールボックス)というタブに登録されているメーター類から選択する。実はプロジェクトを新規作成するときにテンプレートを選ぶと基本的なメーターがセットされるのだが、そのままでは物足りないので、自分でレイアウトした方が断然楽しいし、動画のできあがりも実用的というか、有益な情報が得られるものに仕上がるはずだ。
ゲージツールボックスには、速度、対気速度、加速度、高度、上昇/下降速度、マップ(コースレイアウト図)、スロットル開度/ブレーキ、気温、勾配など、さまざまな計器が登録済みで、アナログ/デジタル表示や単位の違いを選べるものもある。
なかには、モーターサイクルや車のメーターを模したレイアウトになっているものや、スキューバダイビング用コンピュータまで揃っており、いろいろなアクティビティに利用することが可能だ。ちなみにサイクリング用でいうと、速度、ケイデンス(クランクの回転数)、ペダル出力(ワット数)、心拍数がセットになったメータークラスターがあり、速度の単位に応じてマイル/時とキロメートル/時が選べるほか、ワット数の最大値を大きくとったハイパワー版(プロ選手や上級者のトレーニング向けだろう)も用意されている。
こうしたメーターはいくつかのパーツを組み合わせて作られているので、カスタマイズも簡単だ。配色の変更はもちろん、ラベル文字を変更して日本語表記にしたり、サイズや配置を調整したりすることも可能だ。
速度のように値が変化するものはデジタルの数値表示なら“Dynamic Text”、針式のアナログ表示なら“Non Linear Needle”といったパーツを使い、それぞれにどの値を入力するかが割り当てられている。試しにペダル出力を表示するパワーメーターを消去し、その部分に代わりとしてGメーターを入れてみたところ、加減速G(Accelation Gs)と横G(Lateral Gs)の二つの入力値を割り当てることで、ちゃんと動作した。
ログには時刻と経緯度、高度のデータしか記録されていないが、座標と時間の変化から加速度を自動で計算してくれるようだ。モーターサイクルに比べると自転車のGははるかに小さいが、そこは最大入力値とメータースケールの変更で対応できる。
カスタマイズしたゲージはツールボックスに登録しておけば、別のプロジェクトでも流用できるし、必要なゲージをセットにしたテンプレートを保存しておけば、次からの作業はぐんと楽になる。
以上の設定が終わったら出力用プロファイルを選択し、「Create Video」コマンドを実行すればレンダリングがスタート。あとは合成された動画ができあがるのを待つだけだ。
体験版では最終的な動画の出力ができないが、ゲージがどのように動くかは編集画面上でのプレビューで確認できる。パソコンのパワーによってはオーディオトラックの再生に遅れが出たりするが、基本的な動作確認には支障ない。
以上が基本的な使い方だが、そのほかにもオープニングタイトルやエンドクレジットを作成することが可能。ゲージを正確にレイアウトするためのグリッド表示と整列用コマンド、出力用プロファイルやGPSログのデータ構造を編集するためのエディタといった補助的な機能もある。
YouTubeをはじめとする動画共有サイトを見ると、モータースポーツやサイクリングでの利用が多いようだが、そのほかにも軽飛行機やパラグライダー、スカイダイビング、R/Cヘリ、ボートなどいろいろな動画がアップされている。冬ならスキーやスノーボード、夏ならラフティングやリバーツーリング、セーリングなどで使うのも楽しそうだ。オフィシャルサイトにはビデオコンテストのページ(http://dashware.net/Home/VideoContest)もあるので、興味を持たれた方は、まずそちらをご覧いただくとよいだろう。
単なる記録用だけでなく、アスリートにとってはトレーニングの資料にもなりそうだが、なによりうれしいのは高価なGPSロガーがなくてもスマートフォンがあればかなり楽しめるという点だ。GoPro独占状態の感があったウェアラブルカメラも、昨年あたりから国内メーカーの参入で活性化しているようだし、アウトドアの楽しみをさらに広げるツールとしていかがだろうか。