2010年に最も印象に残ったソフトとして選ばせていただいたのは「XMind」だ。実は、つい先日紹介記事を執筆させていただいたばかりなので、「気に入ってとにかく使い込んだ」といえるほどなじんでいるわけではない。しかし、短時間試用しただけでも「おおっ」と声を上げてしまうほどの楽しさがあり、記事執筆の依頼を受けたこと自体がうれしくなってしまったのだった。
「楽しい」といっても別にこのソフト、ゲームやパズルのようなアミューズメント系ではない。アイデアを書きとめ、図として整理するための「マインドマップ」を作成する、いわばチャート作成用のグラフィックソフトだ。マインドマップやアウトラインプロセッサのように考えをまとめたり、表現したりするためのアプリケーションで筆者が最も気にするのは「思考を途切れさせないこと」。つまり考える作業を邪魔せずに、スムーズに扱える操作性だ。
そこで、まず目についたのが、表現力に関連する部分である。例えば一般に「ノード」(節)と呼ばれるひとつのトピックを装飾する場合、いちいちプロパティ設定画面を開かなくても、ウィンドウ上に常に表示されているタブから簡単に枠線の種類や色、フォントなどを指定できる。また、書式設定を組み合わせた「スタイル」があらかじめ用意されているので、ワンタッチでのスタイル指定が可能。さらに、ツリー構造全体に一括適用できる「マップスタイル」を使って簡単にチャート全体を装飾することもできる。
回数にしてみればほんの1〜2ステップを省いただけかもしれないし、やっていることはビジネス系グラフィックソフトなどと大差ないはずなのだが、それでもなぜかストレスが少なく感じられる。
ただし、これらは乱暴な言い方をしてしまえば単にチャートの見栄えの問題だ。「XMind」のさらなる特徴は、情報そのものの見せ方という意味での表現力も備えている点にある。一般にマインドマップでは、中心となるトピックから細分化した枝が階層構造をなす形でレイアウトされる。なかでも一般的なのが放射状に伸びる形だが、そのほかにも組織図のようなトップダウン型やリスト風などいろいろなレイアウトがあり、表したい情報の性格によって使い分けたい。
「XMind」では、この「情報表示の構造」をノードごとに指定できる。ひとつのチャートの中で、全体は放射状のマップ、そこからのびる枝のひとつはリスト風、別の枝では魚の骨型というように、目的に応じた構造を混在させることができる。しかも、切り替えはメニューコマンドを選ぶだけだから、ある形で図を描いていてもっとわかりやすく表現したいと感じたら、その枝だけ簡単にレイアウトを変えられる。
実際には、あまり混在させると却って全体が見にくくなってしまう可能性はあるものの、試行錯誤しながら考えをまとめあげてゆく上で、こうした柔軟性はありがたい。もちろん、ツリー構造にでは表現しきれないノードを独立して配置したり、あとからツリー状に組み込んだりすることもできる。離れたノードを線で結ぶのも簡単だし、その表現方法も豊富だ。
さらに唸ったのがドリルダウン機能だ。これはひとつのトピックをさらに細かくチャート化するときに便利な機能で、新規にチャートを作成して親チャートのトピックと子チャートをリンクするといった手間を掛けなくとも、単にトピックを選んで「ドリルダウン」コマンドを選べばOKという単純さ。もちろん子チャートで作業中でも、「ドリルアップ」でただちに親チャートに戻れるし、全体でひとつのドキュメントとなるので文書管理上も手間が増えることはない。さらにさらに言えば、この子チャートを分離してひとつの文書にするのも簡単。例えば、ひとつの大きな事業プロジェクトから一部を独立させて別プロジェクトにするようなことができる。
もし単純な図だけでは情報を表現しきれないというのなら、ノードごとにメモを書き込めるし、チャート上にも「要約」という形でテキスト情報を書き込める。
というわけで、実に多彩な表現が簡単にできてしまうところが、筆者がこのソフトに感じる最大の魅力だ。ちなみに、上でも触れた「ツリーとは独立したノード」をフローティングトピックというが、編集画面上の空白部分をダブルクリックするとこのフローティングトピックが作成される。つまりホワイトボード上に自由に書き込めるメモツールといった使い方もできるし、オーソドックスに組織図などを描いてもいいし、ファイルへのリンク機能を生かした文書管理ツールやWebページのブックマーク集といった使い方も可能。ノードに写真を貼り付ければ、撮影地情報管理や観光ガイドみたいな使い方だってできなくはない。チャートの新規作成時には、白紙(中央に中心トピックひとつを配置)のほかにも、ブレインストーミング用やミーティング用、プロジェクトマネジメント用、人事管理用、読書記録などのフォーマットが選べる。
欲をいえばもう少しだけ自由なレイアウトを許してくれると、筆者としてはさらに使いやすいのだが、このあたりは何か使いこなしのテクニックがあるのかもしれないのでもっと使い込んでみたいと思う。とにかく、このアイデア次第でいくらでも用途が広がりそうな雰囲気が、いかにも思考をサポートしてくれるツールっぽくてうれしくなってしまうのだ。