オンラインソフトは、作者自身が使いたいという実用的なニーズから発想されたものが多い。しかも完成したあとも、機能を追加したり、使い勝手を工夫したりして、改良されるから、細かい点まで行き届いた作品が多い。そういうソフトは作者にとって「よく手になじんだ道具」であり、第三者であるユーザにも、市販品にない温もりがあり、使っているうちに愛着を覚えるものだ。
もう一つの楽しみが、ピンポイントで深く突っ込んだユニークなソフトに出合えることだ。今年は、画像加工ツールの中でまさにピンポイントのニーズを追求したソフトに出会ったのでご紹介したい。
「虹架け for Windows」は、“空の写真に虹を架ける”機能だけに絞ったユニークな写真加工(合成)ソフト。「虹」や「日暈」など、あらかじめ用意された光学現象の画像を用いて位置やサイズ、濃さなどを好きなように調整し、写真の上に合成して画像として保存することができるものだ。
デジタルカメラの進化はめざましく、ポートレートから風景、接写、夜景まで、フルオートで撮影できる。しかも、モードも意識する必要がないカメラでは、思い立ったらすぐにパシャッ! で見栄えのする写真を撮れる。そんな万能選手のデジカメでも苦手はある。例えば、空の色をきれいに出したいとか、水の中の魚を撮りたいとかいう「特定の目的」を持って撮ろうとすると、かなりのテクニック、というか試行錯誤が必要となる(そこが写真という趣味の醍醐味にもなっているわけだが)。
光(太陽)に向かう逆光撮影あるいは、空の光そのものを写すことは、そのなかでもかなりの難関といえる。明るさや光線の加減など、狙った効果を出すことはなかなか難しい。例えば虹や日暈は、現れる気象や大気の条件が限られるし、見えたようには写ってくれないことが多い。
「虹架け for Windows」なら、難しいテクニックいらず。しかも、好きな位置に、好きな濃さ・明るさで思い通りの「虹」を架けられる。調整項目は位置、サイズ(直径)のほか、「彩度」「明度」「透明度」「暗部の表示」などと豊富だが、使ってみると意外に簡単だ。プレビューで合成の結果を見ながら、試行錯誤で条件を変えてゆけるので、知識などはまったく必要ない。
合成できる画像は、いわゆるアーチ型で七色の「虹」だけではない。
- 主副虹(主虹+副虹):少し離れて二重になった虹
- 日暈(ひがさ):太陽を取り巻くように現れる虹や光の輪
- 彩雲:雲の一部分が虹色の模様で彩色される現象
- ブロッケン現象: 霧や雲の中で人や物体の影の周りに現れる虹模様
- 環天頂アーク:太陽の上側(天頂方向)に現れる逆さの虹
など、あまり一般には馴染みのないマニアック(?)な現象までカバーしている。筆者にとっても「虹」のほかは知らない気象用語だったので、ネットや本でちょと調べてみると、虹の世界の奥の深さに驚いた。さらに、その美しさにこだわって撮影にチャレンジしている人も大勢いるらしい。実際にこうした現象を撮れたら、さぞや楽しいだろうと思う写真が公開されているが、写真に収めるためには現れる場所や気象の巡り合わせだけでなく、シャッターチャンス、そしてなによりも撮影の腕が必要だ。
そこで「虹架け for Windows」の出番となる。こうして虹についてにわか勉強をしてみると、それぞれに発生する原理があって分類、見分け方などは、かなり難しい光学理論を理解する必要があるのだけれど、パソコン上で作り出す分には、そんなことを深く考えなくてもよい。手もとにある「空」を撮影した写真を読み込んで、架けてみたい虹の種類を選び、あれこれといじってみるだけでも楽しいのだ。
「虹架け for Windows」には、二通りの楽しみ方を提案したい。ひとつは、虹などを自然に画像に溶け込ませるように調整して、実際に撮影したような“きれいな写真”を作ること。色を調整することがなかなか難しいが、まず合成させる元の写真をよく選び、「透明度」や「暗部の表示」などをうまく調整すれば、かなり見映えのする写真ができそうだ。その際には、虹の輪郭や色を薄くぼんやりとさせて、写真になじませるのがコツとなる。
そしてもうひとつは、普通の写真に虹のグラデーションや光の輪を写真に追加して、“ユニークな合成写真”を作ること。例えば、ブロッケン現象を使えば、人間が発する「オーラ」や「不思議な電波」を現出できる。元の画像は写真でなく、イラストでもよいだろう。このあたりはセンスと腕の見せどころ。トリック写真あるいはオリジナルのCGアートとしておもしろい写真ができたら、他のグラフィックソフトに読み込んで印刷し、年賀状やカードなどにして人を驚かせてみるのもよいだろう。もちろん、「虹架け for Windows」をきっかけに、気象や光学に興味をもって調べてみることも別の楽しみ方だろう。
デジカメの趣味としては、木々の緑や色とりどりの草花を撮ることが好きな筆者だが、「いろいろな天候の空」という新しい被写体がひとつ増えた。それが一番の収獲だといえるかもしれない。