2010年の「今年、最も印象に残ったオンラインソフト」は「Foxit J-Reader」。ソフトそのものが印象に残ったのはもちろんのことだが、それ以上に、このソフトの登場によって、もしかすると私たちの「パソコン環境」「電子文書観」に大きな変化が起きるかもしれない、そんな思いを抱いたのが、このソフトを選んだ理由だ。
「Foxit J-Reader」はPDFリーダなのだが、ただ読むだけでなく、文字や図形を書き込むこともできるのが最大の特徴。もちろん、リーダとしての機能も申し分のないものだ。サムネイルやブックマーク(しおり)のほか、注釈や添付ファイル、電子署名、レイヤによるナビゲーション機能、文書の左右の90度回転、ズームイン/ズームアウト、さらには一部分だけを拡大表示するルーペ機能などを備えている。ブックマークは自由に追加することもできる。
検索機能も充実していて、ツールバーの検索ボックスに検索文字列を入力して、開いている文書から検索する簡易検索と、検索ウィンドウを使っての高度な検索が可能だ。高度な検索では開いている文書だけでなく、指定したドライブやフォルダ内のすべての文書やインターネット上の検索もできる。目的の場所をすばやく探し当てて読むことができるわけだ。
それだけ充実したリーダ機能を持った上での「編集」機能だが、これもリーダの「おまけ」機能の範囲を大きく越えたものだ。まず、指定した文字列に「ハイライト」「取り消し線」「下線」「波線」「置換」を施すことができる。また、付箋の注釈をつけたり、コメントを書き込んだりすることができるので、取り消し線や置換の指定をした部分に新しい文字列を書き込むといったこともできる。PDFファイルに文字を書き込めるので、ネットなどで配布されているフォーム──例えば役所に提出する申請書など──に文字を書き込んで、書類を完成させることも可能だ。
図形の描画ツールも「雲形」「矢印」「線」「矩形」「楕円形」「多角形」「多角形線」「鉛筆」「消しゴム」の各ツールが用意されている。これらを使って、文書内の特定部分に注目させたり、簡単な図を使っての説明などもしたりできるようになる。さらに、指定ページやWebページ、ファイルへのリンクや、画像、マルチメディアファイル、Java Scriptなどを挿入することも可能だ。
こうした「Foxit J-Reader」の機能によって、いわば「PDFの双方向性」が非常に容易に、誰にでも実現可能になる。これはかなりすごいことなのではないかと思う。
PDFファイルは電子文書の標準形式となるべく設計されたものだが、ある意味ではそれは実現された。ただし、それは一方的に提供される文書に限られている。したがって、ほとんどの人にとってPDFは“読むためだけの”ファイルだった。近年、フリーのPDF作成ソフトも増えて、PDFを作る立場になった人は増えてきているが、それにしてもそのPDFは読んでもらうためだけのものがほとんどだ。
しかし、この「Foxit J-Reader」によって、添削をしてもらう、意見を述べてもらうといったことができるようになった。読んでもらうだけだった文書が、返ってくるようになったわけだ。行ったり来たりの双方向の流れが生まれたことになる。添削が必要な文書はPDF以外の文書でこれまでは行われてきたのだが、いよいよそれもPDFファイルでできるようになる。本当の意味での標準形式に、PDFはなるかもしれない。そんな期待を持たせるソフトなのだ。
しばらく前から、多くの書籍や雑誌で、ゲラがPDFファイルで出されるようになっている。そしてそのPDFが「著者校正をしろ」とメールで送られてくるのだ。ところが、赤入れの結果はファックスだったり、電話だったり、あるいはメールで「○ページの△行目」などと指定して返さなければならなかった。が、もうそんな間抜けな真似は必要ない。「Foxit J-Reader」で赤を入れて、そのまま返送すればよいのだから。