2010年のベストソフトには、短編ファンタジーRPG「picnic!」を選ばせてもらった。選んだ理由は至ってシンプルで、1〜2時間という短い時間で遊べるところと、物語が非常におもしろいという二点。戦闘の難易度もバランスよく調整されており、なおかつ短時間で遊べるので、RPGが好きな人にはもちろん、時間がなくてRPGを敬遠している人にもぜひ遊んでいただきたい作品だ。
舞台は、人間と魔物たちが共存しているとても平和な世界。そんな世界でのんびり暮らしていた騎士の「アーサー」は、王様の「トッポス」からいきなり「魔王」を倒してほしいと頼まれる。ここまでなら普通のRPGなのだが、王様が「魔王を倒したら英雄扱いされる」という理由で「自分も連れて行ってほしい」と言い出したから大変だ。魔王討伐にはいろいろ問題があり、まず城から魔王城まで徒歩20分、近すぎてイベントが起こりようもない。しかも配下の魔物たちが夏休み中で、城には魔王しかいない。さらに魔王はとても評判のいい人格者で、王国民からも魔物からも慕われており、討伐する理由がまったくないという状態。しかたなくアーサーと王様は、北の国で魔王の配下と村人が口喧嘩をし、二人の関係がギクシャクしているという問題を解決するため、北へ向かうことに。と、ここまでが物語の冒頭となる。
すでにツッコミどころが満載だが、全編を通してこのようなゆるい感じのストーリーが展開する。キャラクタも王様をはじめ、個性的な人物ばかり。特に魔王は、思慮深くて心優しいわ、いろいろな場面で主人公たちを助けてくれるわと、魔王らしからぬ活躍をしてくれる。戦闘に関しても型破りで、王様の装備が最初からとにかく強い。たいていの魔物は、王様の一撃で倒す(気絶させる)ことができる。HPが低いというハンディキャップはあるものの、防御力がとんでもなく高いため、敵から攻撃を受けてもほとんどダメージが通らない。それでも、簡単にバトルで勝てるワケではないのだから、バランスの妙というべきか。この戦闘システムの調整は、すばらしいのひと言だ。
上述した通り、「picnic!」の魅力は“型破り”という点に尽きる。優しくて人格者の魔王、人間を襲わないように訓練されている魔物たち、民家に入って話を聞こうとすると「勝手に家に入ってくるな」と怒る村人たち……。お店で武器や防具を購入しなくても、フィールド上や村に設置された宝箱を開けていれば、最強装備が揃ってしまうところなどは、普通に驚いた。また、村の酒場で魔王が作った銘酒「魔王」をマスターからススメられたシーンでは、思わず吹き出しそうになった。
「picnic!」では、“RPGのお約束”がことごとく守られていないのだ。ともすれば既存のRPGに対する皮肉ともとれるシナリオだが、のんびりとした世界観と秀逸なギャグセンスで、非常に質の高いコメディ作品に仕上がっている。後半にはホロリとするような感動的なシーンも用意されていて、短い物語の中におもしろい要素がたくさん凝縮されている。約1時間半程度の、とても愉快なピクニック。ぜひ、より多くの人にプレイしていただきたい、珠玉の作品だ。