画像加工にはさまざまな目的がある。例えば、デジカメ写真を趣味とする人なら、明るさやコントラストを修整したり、光線の違い(蛍光灯・曇天など)によって狂った色味を調整したりなど、フォト用紙にきれいに印刷するための修整が中心となる。また、blogに掲載する日記やオークション商品の写真なら、鮮明でくっきりとした画像が求められるので、小さなサイズで液晶でも見やすいように補整する必要がある。そのほか大画面テレビやデジタルフォトフレームなど、最近は写真を紙に印刷せず、液晶ディスプレイで写真を閲覧する人も増えており、液晶の画面で映えるような写真の美しさを追求したいというニーズもあるだろう。最近は、こうしたいろいろな楽しみ方に応じて、画像加工ソフトもお手軽なものからプロ仕様まで多様化しており、自分の用途と能力にあった選べるようになったことは喜ばしい限りだ。そんななか、今年は、高機能なフォトレタッチ機能を使わなくても、油絵や水彩画など、さまざまな絵画タッチに変えられる、手軽な画像加工ソフトに出合ったので、最も印象に残ったソフトとしてご紹介したい。
「Comfort」は、ひと言でいうと「写真素材を一発で柔らかな絵画調の画像に変えてしまう簡易レタッチソフト」だ。絵画のタッチとしては、べたっとした独特の風合いの「油絵風」、透明で淡い色調の「水彩風」、鉛筆の細かな凹凸(ざらつき)を表現した「色鉛筆」を選べる。そのほか、全体的にソフトフォーカスになる「柔らか」、日焼けした写真のようなセピア調になる「懐古調」も含めて、合計で5種類の効果が用意されている。
とにかく、シンプルな操作性が魅力。元画像をドラッグ&ドロップで読み込ませ、「画質(効果)」をタブで選択するだけで、画面上のプレビュー画像が瞬時に絵画調に切り替わる。調整項目は画像効果の「強さ」のみで、3段階のレベルで調整することが可能。専門的なレタッチソフトのようなわずらわしさがなく、誰にでもすぐに使える。複数の画像を読み込ませることも可能。一枚一枚の画像を画面上で見ながら好みの風合いに変え、順に保存するという使い方になる。
画質の精細さよりも風合いや質感などを重視するコンセプトで、画像の保存サイズは最大1024×768まで。フォトフレームやパソコンの画面上で楽しむことを主眼に置いているようだ。
画像の回転、元の画像と縦横比が異なるサイズを指定した際の処理(長辺側をカット、短辺側を余白にする)のほか、写真を「作品」に仕上げるための機能として、画像のフレームを加工する「縁取り」や「テキスト挿入」も備えている。縁取りでは、画像を角丸・楕円形に切り取ったり、周囲をぼかしたりすることが可能で、フォト用紙への印刷あるいはデジタルフォトフレームに表示する際に、ポートレートあるいは風景画ライクな印象をプラスすることができる。テキスト挿入は「下辺に1行」、または任意の高さ・位置に「ブロック」の文字列を表示させる機能。文字フォントとサイズの指定も可能だ。
フィルタエンジンには、あるソフトメーカーの「柔らか画像生成」技術を用いており、1枚の画像を一様に変換するのではなく、画像の内容を判断した上で風合いを加味しているとのこと。画像に写っているもののうち、中心となる主題を推定し、全体的な写真のディテールも残しながら、絵画風の効果を加えるという複雑なものだという。
作者のこだわりが感じられるポイントもいくつかある。例えば「背景色」の設定機能。これは「縁取り」で周囲を切り取る際にフレームの外側となる部分(背景)の色を、ユーザが設定できるものだ。細かなことだが、元の写真の色味や明るさに合わせた背景色を設定することで、よりイメージに合った画像を作ることができる。
また、画像効果や縁取りを加えた状態で、読み込んだ複数の写真をブラウズできるのはもちろん、画面を全画面表示させてスライドショウで楽しめるのもうれしい。すべての写真に共通の画像効果、枠となるが、パソコンの画面がフォトフレームになり、好みの絵画調の表示で写真を眺めることができる。
さらに印刷機能では、普通の画像ソフトとは異なる楽しみ方ができる。いい意味で荒れ気味の画質になるので、専用のフォトペーパーでなくても、普通紙でも十分に楽しめる。設定によっては、思いもかけない色や雰囲気が出てくるかもしれない。和紙や布地などを利用して、風合いの違いを楽しんでもよいだろう。
写真を「撮る」ことが趣味という人でも、手持ちの写真がたくさんたまると、いろいろ遊んでみたいという人は多いはず。筆者も、デジカメを使いはじめて10年近くが経過し、なんとなくたまってしまった写真がハードディスクにどっさりあるのだが、何度も見ていた写真がちょっとした効果によって違った雰囲気に見えるのは、なかなか新鮮な体験だ。大げさにいえば、昔撮った色あせた写真がよみがえる気分で、新しい写真の楽しみ方ができると思う。手間も頭も使わず、手持ちの写真で遊んでみたいという人には、ぜひお勧めしたいソフトだ。
機能と操作性のバランスもよく、完成度の高いソフトだが、最後ひとつだけ提案というか希望を出してみたい。それは「何かの形で写真ごとに選択した効果設定の保持機能がほしい」ということ。いまは、複数を同時に読み込んだ状態で、次の写真に切り替えて画像効果の設定レバーをいじったときに、前の写真に対する設定が維持されないが、せめて起動中は、読み込んだ写真ごとの効果を覚えていてくれたらいいなぁと思うのだが……(シンプルさを選ぶ人のためにオプション機能とし、ON/OFF切り替えにするのがベスト)。これができると、ブラウジングやスライドショウで順番に見ていく場合にも、写真ごとに設定を変えながら好みの画質で楽しめるはずだ。