今年の「ベストオンラインソフト」には恋愛ノベルゲームの「19℃」を選ばせていただいた。女性が主人公ということもあり、やや女性寄りの作品ではあるが、恋愛慣れしていない女子大生の不器用で素朴な恋が、ほのぼのとした軽い口当たりで描かれる。男性が読んでも問題なく楽しめるだろう。主人公は、就職活動に奔走中の大学四年生「児玉晴子(こだま・せいこ)」。物語はある朝、晴子が隣家に住む幼なじみの青年から電話で起こされる場面からはじまる。なんと晴子は、就職志望先の本命である銀行の最終面接日に寝過ごしてしまった。急いで面接会場に向かうが、そこで晴子を待ち受けていたのは、妙な質問ばかりする、がっしりした体格のフランクな面接官だった……。
晴子の恋の相手となるのは、年齢もタイプもまったく異なる三人の男性キャラ。ただし本ゲームでは、かなり早い段階の分岐で攻略対象が確定され、晴子が複数の男性の間でフラフラするようなことはない。最後まで一途に一人のキャラだけとの付き合いが継続される。
「真弓秀明(まゆみ・ひであき)」は、小柄でかわいらしい顔立ちの、ちょっと生意気な年下の少年。晴子のバイト先であるファミレスの後輩で、晴子の母校でもある高校の一年生。晴子の前ではいつも仏頂面で、時には無視したりもする。「秀明に嫌われているのではないか」と晴子は感じている。
「夏木雅咲(なつき・まさき)」は、身長180cm以上でひょろりと背が高く、大学の同期かつお手玉サークルの仲間。いつも朗らかな好青年で何でも器用にこなすが、結構ドジなところもある。晴子に好意を抱いているが、はっきりとしたアプローチはなく、恋愛経験のない奥手な晴子には気づいてもらえない。
「椿統司(つばき・とうじ)」は、筋肉質でがっちりした体型の38歳・独身男性。晴子が受けた最終面接の面接官で、銀行入行後の配属先支店の支店長。晴子の方から好きになるが、子ども扱いをされ、まともに取り合ってもらえない。
この三人に加えてもう一人、五つ年上で口が悪く、ちょっと不良っぽい幼なじみの青年「佐倉俊介(さくら・しゅんすけ)」も物語に色を添える。
主人公の晴子自身も、お金と美味しいものが大好きな“天然”気味の嫌みのないキャラとして描かれている。
シナリオは、派手なところのない“実際にあるかもしれない”展開のほのぼの路線を狙っており、短編ということもあって、最初から最後まで気楽に楽しく読むことができる。
そして、なんといってもすばらしいのが豊富に用意されたグラフィックの数々だ。登場人物の立ち絵や一枚絵が美しいのはもちろん、立ち絵のバリエーションが実に豊富。キャラごとの表情やポーズ、ファッションなどが場面に応じて細かく描き分けられ、次々と変化する豊かな表情を見ているだけでも楽しくなってくる。
奇抜な展開や大きなドラマのようなものはなく、若干物足りなく思う方もいるかもしれない。……が、不器用で初々しい恋愛ドラマを最初から最後まで気持ちよく楽しめる、ラブコメ好きにはお勧めの良作だ。