毎年さまざまなゲームをプレイしているが、1年に1本だけ選出する場合、どうしてもシステムが作り込まれていて、中毒性の高いシミュレーションを推したくなる。しかし、本年のベストオンラインソフトにはRPGの「魔王物語物語」を選んだ。「魔王物語物語」は、「主人公の『ヒマリ』が閉鎖された『島』に行き、『魔王物語』という未完の本の結末を求めて探索する」という設定のRPG。このゲームのおもしろいところは、ゲーム開始時に上記以外の情報が与えられていない点だ。主人公は開始と同時に「ネグラ」という場所に個室をもらえるが、「なぜネグラに受け入れられたのか」「ネグラの住民の正体はどうなっているのか」などはまったくわからない。さらに、主人公であるヒマリが何者なのか、なぜ「魔王物語」という本の結末を探しているのかなど、プレイヤーにとってすべてが謎に包まれている。そこで、プレイヤーは行動できる場所を探索し、情報を集めることになる。
最近の一般的なRPGのように、キャラクタ同士が小説のように会話の応酬をする「イベント」や「デモシーン」は極端に少ない。プレイヤーは島の住民などから情報を得られるが、これらの情報ややり取りは比較的簡潔に語られ、非常に断片的だ。このため、プレイヤーは複数のキャラや床に残されたメモ、廃墟に残された本などから情報を得て、自分で真実を推理し、行動してゆく。しかも、ゲームでは「行き先」は決まっておらず、プレイヤーは敵に倒されなければ最初からどこへでも行ける上、「次にどうすればよいか」などの示唆もほとんどない。このため、順番通りにイベントをこなせば、自動的に起承転結がわかる一般的なRPGとはプレイ感がずいぶんと異なる。しかしその分、島をさまよい、情報を集めてゲームの全体像が理解できたときのうれしさは大きい。
もちろん物語の真相だけでなく、キャラの魅力も見逃せない。登場するキャラは数が少なく、会話も少なめだ。しかし、簡潔なセリフやキャラの持つ本、メモなどの情報から、キャラの性格や過去が少しずつ明らかになり、ゲーム中盤ではキャラへの愛着が沸いてくるようにうまく設定されている。いまは映画や小説のような、ストーリーが一本道のRPGが多いが、「魔王物語物語」では情報やキャラのイメージも断片的にしか出ないため、想像力を膨らませて楽しめるという手法をとっている。まさにRPG本来の楽しみ方ができるゲームだといえる。
さらに「魔王物語物語」のすごいところは、真相にたどり着くまでの独特の工程やキャラの作り込みなどのほか、RPGとしてのシステムのレベルも高いこと。数秒のうちに角度を合わせて敵とエンカウントする、アクションとコマンドの入り混じったスピード感のある特殊な戦闘システム。レシピをもとに料理ができる料理システム、アイテムをなんでも装備できる「なんでも装備システム」。そしてレアアイテムの収集など、RPG好きなプレイヤーならばハマってしまうこと間違いなしの作品だ。