「さんぽ日和」は、散歩をテーマとした一風変わったアドベンチャーゲーム。プレイヤーは、小さな古めかしい家の縁側にぼんやりと座っている「おじいさん」となり、ゆっくりと街を散歩する。散歩コースとなっている街には、いろいろなタイプの人が暮らしている。

舞台は、現代的だがどこかに懐かしい雰囲気を持つ、地方の小さな街のような場所。コンビニや喫茶店、本屋などが立ち並ぶ街道、茶店もある遊覧船のりば、こぢんまりした駅、骨董市が開かれている寺の境内、はるかに山が見渡せる川べりなどなど、街の景色はバラエティに富んでいる。各場面には、商売をする人や近所の人などいろいろな人間が登場。また、最近話題のかわいい動物も出てきたりして楽しい。

街の人たちはおじいさんに話しかけたりしてくるが、おじいさんは「おじぎ」「笑う」「泣く」「怒る」「え？（聞き返す）」の5種類の動きに加えて、店や物売りの場面でのみ追加される「買う」といった行動しかできない。

街に出ると、喫茶店やたこ焼き屋などでの飲食代、遊覧船や人力車などの乗り物代、骨董品市での買い物代など、お金を使う場面がたくさんある。しかしおじいさんは、財布に意外とたくさんのお金（3〜4万円）を所持しているほか貯金もあるので、買い物や遊びのお金にはこと欠かない。

大きな事件が起きることは基本的にないが、店を訪ねたり人と出会うことにより、ちょっとした「できごと」が起きて、ストーリーが展開することがある。ほっとするできごとに合うことで、おじいさんの「ほのぼの度」がアップ仕組みになっている。

小さな街のわりには、道や公園、店などどこにいても、本当にたくさんの人に出会う。そして、実にいろいろなタイプがいる。例えば、家出少年や喫茶店主、街頭詩人や親子連れ、なかには怪しい商売の勧誘もいて、飽きさせない。

ゲームウィンドウはかなりコンパクト。上下が「黒幕」で伏せられて（ここに操作メニューやステータスが表示される）、ちょうど映画スクリーンのような横長の画面になっている。おじいさんの歩調に合わせて、場面ごとに切り替わる「舞台」は、どれも確かにゲームっぽいイラストには違いないのだが、流れる雲や鳥の飛んでいるのが見えたり、名もない人が行き交う様子など、ちょっとした工夫を映画の一シーンのように見せてくれる。おじいさんはそうした風景の中で、まるで小津映画の主人公のように、何でもない日常の一日を過ごす……。

小さなゲームなのに独特の世界を作っているという点で、作者の狙いは成功しており、雰囲気もうまく出ていると思う。仕事に忙しい日々を送る人が忘れてしまったような、ちょっと昔の生活を垣間見るというような絶妙なバランス感が心地よいのだ。

おじいさんの視点でのんびり街を歩き、人々とちょっとだけ交流していくうちに、おじいさんばかりでなく、やっているこちらまで暖かい気持ちになった。「何気ない日常にドラマを発見し、もう一度見直そう」という作者のメッセージもそこはかとなく伝わってくる。もちろんこの世界になじめるかどうかが、ゲームを楽しめるかどうかの鍵となるわけだが。

おじいさんが主人公というのは、さんぽが似合うというのもありますが、僕のホームページの投票コーナーで、バス停じいさんというおじいさんキャラの人気が意外にも高かったので、それを見ておじいさんモノを作ろうと思い立ちました。

開発中に苦労した点
夏の時期に主人公のおじいさんのような厚着のキャラクタを描かなくてはいけなかったことですね。ただでさえ暑いのに、さらに暑くなるという……。

9月に入って涼しくなってからは、思うように作れるようになってきました。あと、水彩画風の背景もゲームでははじめて導入してみたのですが、背景はいつも時間がかかりますし、苦労します。

ユーザにお勧めする使い方
今回も多くのミニイベントを入れていますが、これを見つけようと焦ったりせずに、のんびり気分で遊んでほしいです。それと、このゲームに影響されて休日に本物の散歩に出かけたくなったりしてくれるとうれしいですね。