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だが、こうなると疑問に思えるのが、なぜいまごろになってこれほど高速かつ低価格なサービスが登場したか、という点だろう。同じADSLというサービスを使いながら、Yahoo! BBだけが圧倒的に高速になるというのはにわかには信じ難い。 実は、これには、ADSLモデムが使用する通信規格が関係している。フレッツ・ADSLも含めて、他の多くのADSLサービスではADSLモデムの通信規格として簡易規格(G.lite)の「Annex C」と呼ばれるものを使用している。下り速度が最大1.5Mbpsというのは、このG.lite規格によるものだ。 ADSL回線の場合、実は技術的には30Mbps程度までの通信速度が得られるといわれている。にもかかわらず上限が1.5MbpsというG.lite Annex Cを使用しているのは、日本の電話回線における特殊な事情があるためだ。ISDNの存在である。実は日本国内で使用しているISDNは、欧米などで使われている方式とは異なり、ADSLで使われる周波数帯域と同じ帯域を使用する。このためISDN回線でADSLを使用することはもちろん、ADSLとISDNの回線が近接するだけでも「クロストーク」と呼ばれる相互干渉が発生し、うまく通信できなくなってしまうのである。そこで選ばれたのがISDNとの干渉が少ないAnnex C方式だ。この方式であれば日本国内でもほとんどの場合問題なく利用できるが、逆に最高速度が1.5Mbpsに制限されてしまうというわけだ。
■フルレートのAnnex A方式を採用
これに対して、Yahoo! BBではフルレート規格(G.dmt)の「Annex A」方式を使用することで最大速度を8Mbpsまで利用できるようにする。たしかにAnnex A方式は、ISDN回線との干渉によって通信速度が低下する可能性はあるのだが、だからといってすべての利用者にこうした状況が発生するとは限らない。まったく干渉しないか、あるいは仮に干渉したとしてもそれほど通信速度が低下しない場合だってあるだろう。このような場合にAnnex A方式を使用することで、高速化が可能な人には高速化のメリットを享受してもらおう、という考え方だ。 ただ、不幸にしてISDN回線との干渉が生じてしまい、Annex Aが利用できないようなこともないわけではない。そうした場合には、Annex Aの代わりにAnnex C方式に多少のアレンジを加えたADSLモデムも用意しているとのこと。8Mbpsという高速性は得られないが、最低でも800kbpsくらいの通信速度は確保したいとのことなので、運が悪くても現状のフレッツ・ADSLくらいの性能は得られる可能性が高そうだ。 なお、最近になって増加してきた他社のADSL 8Mbps回線の場合、簡易規格ではないフルレートでのAnnex Cを使うことで、8Mbpsという速度を達成したものが多い。原理的にはこちらの方がISDNとの干渉に強いということになるが、回線速度がベストエフォートであり、スペック通りの8Mbpsという値はよほど運がよくないと得られないという点では、どちらも同じだ。 こうなると、同じ料金を払っていながら8Mbps近い超高速性能が得られる人と、その1/10の800Mbpsという最低線の人とが生じることになってしまう。ちょっと不公平に思えるかもしれないが、そもそもベストエフォートというのは「できる限りのことはするけれども、できない部分については仕方ない」として全体としての提供価格を下げる、という考え方だ。たとえ800kbpsだったとしても、アナログモデムはおろかISDNよりも圧倒的に高速で安価なのだから得をしている、と前向きに考えた方がよいだろう。 回線の性能を決めるもうひとつの要素であるプロバイダのバックボーン回線の太さも、さすがはYahoo!といえるものだ。7月中には、全国の1,500あるNTT局をギガビット回線で接続して国内通信をカバーするほか、海外との接続についてもソフトバンクグループが持つ国際回線によって、最大10Gbps程度が準備されるとのこと。これらの規模を見ても、このサービスがこれまでのADSLの常識を覆す大きなものであることがわかる。
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