「ソフトの適正価格」論議は続いている。まずは、産業機械の制御ソフトを開発しているわだちゃんのメールを紹介する。
「私は、産業機械の制御ソフトを下請けで作成している者です。私も、ソフトの適正価格については毎回頭を悩ませています。見積もりを作る際に、産業機械のI/O点数や制御機能数、ステップ数、(予測)作成期間を考慮して作成しています。しかし、客先に提示すると『高すぎる』という話になり『値引きしろ!』と言われます。この言葉を聞くたびに『ソフトはタダ』という考えが蔓延っているんだなと感じます。確かにソフトがCD-ROM1枚に対し、機械は数tという重さだから、それで比較されると困ってしまいます。何とかならないものでしょうかね?」
以前、データエントリーサービスから適正価格を算出してみてはどうかと提案した。しかし、前回のビッグゲートさんの指摘にもあったように、「ソフトはハードまで含めたシステムに包含される」という考え方から、対価を無視してしまう考え方がある。まして、このメールにあるように「ソフトがCD-ROM1枚に対し、機械は数t」という違う土俵での比較をされてはたまらない。
考えるに、知的財産の開発コストを、業界を挙げて標準化する一層の活動が必要ではないか。ソフト開発のみで生計を維持しなければならない企業群は、このままでは衰退する一途のような気がしてしまう。プログラマ、グラフィッカー、サウンドクリエイター、ゲーム企画者などなどは、あらゆる手段を通じて自身の資産価値を訴え続ける必要があるだろう。
ちなみにオレも先日、同じような経験をした。某テレビ局と契約する制作プロダクションから電話がかかってきた。
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- 「もしもし、島川さんですか。今回、○○という番組で秋葉原を特集することになりまして、つきましては、電気街の穴場をご案内いただきたいのですが」
- 「それはかまいませんが、謝礼はおいくらですか?」
- 「えっ、謝礼を取られるんですか、じゃ、××円ということで」
- 「えぇっ、△△という番組で同じような仕事をしたときは、その3倍は頂戴しましたよ」
- 「じゃ、いいです(ガシャ)」
困惑する顛末であった。
さて、いつも問題提起してくれるビッグゲートさんが、またメールをくれた。
「話はがらっと変わるのですが、フリーソフトやシェアウェアの探索の醍醐味は大手が手を出さないような痒いところに手が届くソフトじゃないかと思います。そういう意味では『窓の手』や『秀丸エディタ』なんかは定番ですよね。大手がタダで配布しているブラウザやメーラなんかより、気の利いたものはたくさんありますよ」
そう、ベクターにハマると、ダウンロードが癖になってしまう(笑)。そこで大手ソフト会社が発想しないような気の利いたニッチ(隙間)ソフトを発見すると、思わず「やったね」という気分に浸ることができる。ブロードバンド環境のおかげで多少、重めのソフトでも、億劫な気分になることも少ない。
で、当コラム読者に「あなたがほかの人に推奨したいソフト名とその理由を教えてくださいナ?」と質問しよう。今週の金曜日の朝まで届いたメールから、ランキングを出してみるつもりだ。
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さて、7月からスタートした「ベクター縦横無尽」は、9月末をもって終了することになった。当コラムは実験的な意味合いの強いもので、読者の支持が得られれれば、長く続くはずだった。だが、過去、何度か書いてきたように、ソフトウェアに関する個々の意見を発する人の数は意外と少ないことがわかった。
パソコンがビジネスシーンの必須ツールとなり、家庭内の標準的ツールに化けた現在、「このソフトは重い」だとか「このシステムは穴だらけ」だとか「○○(ソフト会社名)のユーザサポートってひどぉいの〜」ってな声をあちこちで聞くようになった。以前、マイクロソフトの前社長・成毛真氏と赤坂の蕎麦屋で飲んでいたとき、近くのサラリーマンたちがWindows論議で湧いていたのを目撃して、二人で目を見合わせながら同じ言葉を漏らしたものだ。「こんな時代になったんだねぇ……」
こんな時代になったのだから、個々の人々の意見を募集して、オレなりの再編集をしてみようと考えた。発表の場にベクターを選択したのは、フリーソフト、シェアウェア、製品を送り出している代表的サイトであることからだった。残り2回ではあるが、オレ自身は、このコラムは意義あるものと自覚しているので、モチベーションが落ちることはない。それどころか、ベクターに再登場希望メールが届くよう、気を入れて書いてゆくつもりだ。また、これまでにメールをお送りいただいた各位、ROM読者の皆々様には、最終回までのご支援をお願いしたい。