義眼の賞金首

 遥か彼方で、閃光が地表に突き刺さる。と、暫くして重低音が響いてきて、その後に地響きが伝わってきた。特に、地下に潜っているとこの地響きは、地上で巨人が闊歩しているかのようで恐怖と共に自分が生きていることを感じさせてくれる。実際、あの地響きが近くに聞こえると、気まぐれな巨人が自分のほうへ向かってくるのではないかという不安がどっと押し寄せてくる。心臓の鼓動や全身に走る一瞬の緊張、集中される意識。そこには、悟りの境地はこういうものではないかと思わせる、生か死か、この絶対的な2つしかない。一つ足を踏み鳴らせば、たちまち自身の存在を消し去る見えない巨人の気まぐれ。そこには、人の意が介さない因果律とでもいおうか、確かにそんなものが感じられた。
 
 まあしかし、それにしても、その気まぐれと付き合ってきたここの住人も何気に恐ろしい。そう俺は考えていた。

  「隕石ってのは、もっと上品に降るべきだよなあ。軽やかに、そして甘く優しく。これじゃあ、住む気もおきねえぞ」

 地球に来るたびにそんなことばっかり思う。結構前までは人が普通に地上で暮らしていたそうだが、今日の状況を見るととてもそうは思えない。あちらこちらに大きなクレーターができ、大地は草一つない有様。訪れるたびに変わる地形。住むに必要なものはすべて地下へと移動し、地表はただの隕石避けの傘でしかない。まあ、古き良き時代を知る遺跡はあちらこちらにあるが。
 そういえばどこぞの宗教家が、あのゲート事故は、地球で繁栄を極めた人類を強制的に宇宙へ移住させようと、神が下したメギドの矢であるなどとほざいていたが、それも多少は言い得て妙だったとおもう。住環境が著しく悪化した地球を見限り、テラ・フォーミングの進み出した他の惑星に移住する風潮が一気に高まったのは確かだ。今の太陽系域の繁栄を、このちっぽけな地球でやれるとは訳がない。あのゲート事故も今となっては必然だったのだろう。

 「まあ、それのお陰でアウトローにとっちゃ、隠れる場所も多いって訳だな」

 俺が、この地球に来たのはある仕事でだった。数ヶ月前にレッドドラゴンの本部が敵対したマフィアとの抗争で壊滅した事件を耳にしたが、その影響で各地のマフィア達が一斉に策動し始めた。無理もない。いままで拮抗していた勢力図が一気に塗り替えられるのだから。それに、このチャンスを逃してしまえば、自分達もレッドドラゴンの二の舞になってしまう可能性がある。
 
 そんな中、とあるマフィアから俺に仕事の依頼がきた。依頼内容は逃げ延びたレッドドラゴン幹部の抹殺。報酬は3千万ウーロン。ま、芽は完全に摘み取るってのが狙いらしいけども、依頼してきた連中はマフィアの中じゃあ中の上って位置だから、どう転んでも台頭できる見込みはない。まあ、形の上ってやつだろう。残党狩りで3千万、それとは別に手付金で8百万ってのはちょっとしたものだ。大方、幹部を殺った後の俺を始末でもして払わないってのがオチだろうが。
 連中の情報網ってやつで幹部は地球にいるって教えられた時には断ろうと思った、が、目の前に置かれた8百万ウーロンに目がくらんで、というわけではないつもりだったが二つ返事で了承してしまった。 
 
 そういった背景があって今回の地球詣でとなったわけだ。まあ、火星での仕事も提示され、正直そちらのほうが良かったが贅沢はいえない。下手に動くとこっちが捕まってしまう危険性があるからだ。暗殺などという仕事柄、やはり、お尋ね者にはなるわけで賞金を掛けて捕まえようとする連中がいるわけである。まあ、仕事中にちょっとした手違いで無関係の人間に発砲してしまったことが原因ではあるが。で、その流れ弾に当たったのがISSPの警官という事で、晴れて俺も賞金首の仲間入り、しかもISSP直々のご指名というオチがついた。
 
 実際、その所為で1ヶ月ほど前、賞金稼ぎに片目をやってしまった。丁度いい具合に裏流通で中古の義眼が流れてきたから即買いし、それを取りつけたので事無きを得たが。ま、その手術費用が、義眼はもう用意してあるとはいえ結構な額で(裏医者の手術というのも多少はあるだろうが)、それもあって今回の仕事を引き受けるに至ったのだが。
 
 「たしか、ここだったよな」

作/頓服

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