マフィアの系図(仮)

 昔から、それは、文明というものが地球に芽生えたころからの不文律といってもいいだろう。新たな地を求め、開拓していくものは多かれ少なかれ、「ファミリー」を作る。
あるときそれは「新興宗教」と呼ばれ、あるときは「マフィア」とも「任侠」とも呼ばれるそれは形をかえ、名前を変え、いつの世も自分たちの確かな足場として、社会の中に作られていく。

厳しい規律と掟を元に「ファミリー」は時には世界を裏から支え、男たちはその中に何物にもかえられない絆を求め、多くは闇に身を投じるのである。

 人々が宇宙に進出し、ゲート事故によって、ますます地球にとどまることが困難になり、人々はまた開拓者となった。
香港マフィアを前身とする「レッド・ドラゴン」はその中で成功を収め、巨大な力を持った。
星を開拓し、新しい資源を見つけ、「レッド・ドラゴン」は日に日に巨大な組織になっていった。表向きにも、いくつものカンパニーを持ち、ISSPでさえ、一目置いていた。

 マオ・イェンライはそんな「レッド・ドラゴン」の中でも幹部に属し、その温厚な人柄からは想像もつかない業績をあげていた。彼はある日、一人の少年と出会った。
 彼はその少年に武道と銃の扱いを教えた。
「水になれ、武道とは力ではない。相手の気配を読め。相手が次にどんな動きをするか見極めろ。」
少年はすばらしい才能を発揮し、飲み込みも早かった。マオは少年をとてもかわいがった。我が子のように。

「おまえに紹介したい奴がいる。」
ある日、マオは一人の青年を連れてきた。日本刀を持ち、どこか冷たい感じのする青年だった。青年の後ろには控えめだが、なかなか芯の強そうな若者が二人。
「彼は、ビシャス。ビシャス、こっちはスパイク。あぁ、それからこっちにいるのがシンとリンだ。」
シンとリンは二人の手足となって働いてくれるだろうといった。実際よく気のつくいい部下だった。
ビシャスはいつも「いずれこの世界は俺のものになる」といってはばからなかった。
スパイクもビシャスもお互いを相棒と認め、マオも驚くほどの実績をあげた。

が、スパイクは次第にこの組織の中にいることに疑問を抱き始めた。
そして、事件が起こった。スパイクはその日からマオの元に返らなかった。
ビシャスはスパイクは死んだと伝えただけだった。マオは無理に探し出そうとはしなかった。マオは知っていた、スパイクを拾い育て上げたときからいつか、こんな風に自分の元から去っていってしまうことも。

「これで、一息つけるな。」
窓の外を眺め、飛び去る船を見上げた。不意にその船が轟音とともに爆発した。
「!」
人の倒れる音に振り返ろうとしたその喉に冷たい刃が光る。
「時代は変わったんだ・・・。」
「ビ、ビシャス・・・。」
刃はなんのためらいもなくマオの喉を切り裂いた。
「スパイクさえ、スパイクさえもっどって来てくれたら・・・。」
マオは薄れ行く意識の中で、スパイクの面影を追いつづけていた・・・。
まだ、幼くて、習いたてのクンフーを自慢げに披露する少年の日のスパイク・・・。
好きな女ができたと少し恥らいながら紹介したときのスパイク・・・。
初めての仕事を無事に終え、興奮気味で報告にきたスパイク・・・。

死んですら、安らぎを得られないマオの遺体は無残に打ち捨てられた。
オペラ座から運び出され、朽ち果てた教会の片隅で、彼の一番待ち望んだものとの無言の再会を約束されながら、果たされぬまま・・・。
 マオに与えられた「死」は「ファミリー」に属する者の運命というべき「死」だった。
マオのために、瀕死の重傷を負ったスパイクをマオは知らない・・・。だが、マオの死はスパイクの確かな生存を「レッド・ドラゴン」の三人の最高幹部にもたらした。
 ここに「レッド・ドラゴン」の新たな時代が始まる・・・。

  END

作/猫宮よしき

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