オリジナル Vol.3

 「イテ!」
「あぁ、ごめんなさい。でも、あなたたち見てるとほんとに飽きないわ。」
怪我の手当てをしながら、可笑しそうに女が笑った。珍しいことだった。
肝心の怪我の原因となったやつはさっさと部屋を出て行った跡だった。
「何やってんだ。スパイク」
大柄の男が遠慮もなく部屋に入ってきた。
「面白いものがきたんで持ってきてやったぜ。」
一枚の紙をひらひらさせてベッドの脇にどかっと座った。
 女は丁寧にお辞儀をして出て行った。男は無意識に目で追っていた。
渡された紙には支離滅裂な言葉がつらつらと書いてあった。最後に長々とした名前が書いてある、知っているもの(正確に記憶しているわけではないが)よりさらに長くなっていた。
「元気そうじゃねえか。」
「一応あのみょーな親父と一緒にいるみたいだしな。アインも一緒らしい。で、どうなんだ、体の具合はよぉ。」
「見てのとおりだよ。」
男はなにやら意味深な顔つきでうなづいた。
「しかし、何だな。あの先生は美人なんだが・・・そのなんていうか・・・俺みたいなやつから言わせるとだな・・・」
「えたいが知れない。」
何でわかるんだと言いたい表情で相棒を見る。
「訳ありってやつだよ。俺にもよくわからねぇ。」
何か言いよどんだ感じのはっきりしない答えに半ば諦めを感じて、男は立ち上がった。
「じゃぁ、ここを出るときに迎えにくるぜ。」
「あぁ。そうだジェット、ひとつ確認しておきたいんだが。」
男は一瞬ビクッと肩をすぼませた。次に何を聞かれるのか分かっているようだった。そしてそれが相棒の望む答えでないこともすでに知っていた。
「奴は消えた。でもな、スパイク。あれだけの血を流して、奴が生きているなんて考えるほうが不自然なんだ。現におまえは死んでいた。身体を再生するところにもあたって見たがそれらしい奴もいねぇ。だが、奴があの場からいなくなっていたのは確かだ。
 俺にはそれしかいえんが。スパイク・・・。もういいんじゃねぇのか。いまさら、おめぇらの過去を聞く気も俺にはねぇ。レッド・ドラゴンは壊滅した。それで全部終わったんじゃないのか。」
こいつはこういうときには饒舌になる。男は大きくため息をついて出て行った。
 ジェットの想像していたよりも俺は冷静だった。というか、今俺の頭の中にあるのは、あの女のことだった。年もとらず、死ぬこともできず、自分の罪に身を振るわせる一人の女。
 これは単なるあの女に対する興味だったのだろう。次の朝女が消えた事に、俺はさして驚きもせず、またあのうるさい奴に鉄拳を食らった。
 どうすればフェイのやろうは納得するんだ。大体あいつは自分の過去を見つけたとか言って出て行ったはずじゃないのか。

 覚めない夢が俺は見たかった・・・。まだ俺はその中にいられるのか?
巨大な試験管の中に息づく俺の身体の一部と、この頭を再生させた女。
クローンではない、俺を作り出した女。
あんたは何度も俺に語りかけた・・・。自分の産み落としたたった一人の息子・・・。
その正常な人間としてのDNAがたった一つでもあればと・・・。

 自分が逃げ出してきた世界への望郷・・・。そのために何かを見つけ、姿を消したのなら、それはそれで幸せなんだろうとぼんやりと考えた。

「ほんとにどっか消えちゃったの?」
多少疑り深く、フェイが言った。俺は外を眺めながら答えなかった。
久しぶりに食べたジェットの料理はうまいとかまずいとかじゃなくただ懐かしかった。
「なぁ。ゲートの中は、亜空間なんだよな。その中に入ったら他の次元に行くってことだろう。他の次元って言うのはどんなところなのかな。」
「何すっとぼけたこと言ってるのよ、やっぱまだどっかおかしいんじゃないの?それとも、剣と魔法と勇者とお姫様の世界があるとでも言いたいの?そんなのあるわけないでしょー。」
「実際ホント夢のない女だよなー、おまえって。」
「おい、二人ともいいかげんにしろよ。それより、スパイクこれ見てみろ。まんざらおまえの考えも間違ってるわけじゃなさそうだぜ。」

メール画面には、ルクレティアからのメッセージが映っていた。
 ゲートの事故について、自分なりに調べ、帰るすべを探していると。

俺はそのメールをそのまま削除した。

  END

作/猫宮よしき

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