プリン賛歌(その3)

 V・Tの回想スタート。

 年に一度、V・Tは有給休暇を取ることにしている。
 トラッカーとて人の子で、たまにはまとめて休息して、体力的にも精神的にもリフレッシュしたい。
 というわけで、V・Tは昔亡くなった夫と利用したこともあるウィークリーマンションを一ヶ月間利用することが習慣となっている。
 スパイクに電話する前、買い物から帰ってきたV・Tは壁に向かって鳴いているゼロスを発見した。
 それが悲鳴ではなく、威嚇のうめき声であることを知った彼女は、とっさにベランダに向かって、
「ゼロス!!」
 と号令を出した。ゼロスが隣のベランダにジャンプすると、V・Tも壁を伝って、隣のベランダへ移動した。
 窓から、色白で小太りの男がカミソリを手に持って、一人の少女に迫っているのが見えた。
 少女は服の一部を引き裂かれ、恐怖のあまりに腰が上げられない。男はブツブツ言いながらジワジワと近づいていく。
 ゼロスが威嚇のうめき声をあげている。V・Tが窓を空けようとするが、鍵が掛かっていているので、仕方なく、腰のポケットから緊急車両脱出ハンマーで取り出して、窓に当てる。ガラスの乾いた音が耳に届く。
 割った窓からゼロスが飛び出して、男の足を噛みつく。男が抵抗を続ける度に、ゼロスの噛みつく力が強くなる。
 V・Tが鍵を解除して、窓を開けてから、ハンマーの先を柄に持ち替えて、
「女を脅すなんて、一世紀早いんだよ、このデブ!」
 と怒鳴りながら、けい部を打つ。男がひるんだ隙に、護身用の催眠スプレーを吹きつけた。
 相手はあっけなく眠りについてる間に縛りつけた後、
「大丈夫か?!」
 泣いている少女にジャンパーをかけた。

 これでV・Tの回想ジ・エンド。

「それで俺に何をするんだ?」
「このデブを警察につきつけばいいんだよ」
「免許は?」
「とうの昔に返した」
 スパイクはまだ眠ったまま縛られている男にじっと見つめると、
「どっかで見たことあるな、この色白デブ・・・」

 数分後、スパイクは男を警察につきつけた。男の身元が不明の為に、事務処理をしてもらうのに時間が掛かったが、過去の賞金首情報から割り出して、ようやく身元がわかった。

『アレック・カツノリ・ヤマムラ 35才 
 容疑 窃盗及び婦女暴行殺人未遂
 賞金 9万8000ウーロン』

「けっ」
 スパイクは判明された賞金首の身元と受け取った賞金の額に、思わず吐き捨てた。
(しかし、カミソリを使って何をするつもりだったんだろう?あの色白デブは・・・)

 それからスパイクはV・Tにいるマンションに戻って、それまでのいきさつを話した後で、賞金の半分を差し出した。
「いらないよ」
 とV・Tは受け取りを拒否した。
「こいつはあんたが受け取れよ」
「何故だ?」
「この間、プレイリーオイスターをおごってくれたお礼だよ」
「そうか。じゃ、あんたの言葉に甘えるぜ」
 スパイクは賞金の残りをポケットにしまいこんでから、隣の部屋に入る。
「・・・・・・?!」
 そこには少女が眠っている。スパイクがV・Tに聞くと、その少女はあの時の被害にあった少女だと言った。
「どっかで見たことがあるな・・・」
 と言いながら、スパイクは通信機を手に取った。
「V・T、ある人が『この世に偶然はない』と言っていたが、あんたは偶然を信じるか?」
「信じると言ったら嘘になるけど、この世は様々な偶然の繰り返しだ。それを信じない奴に限って、大袈裟なリアクションをするけど。あんた、まさか?」
「そのまさかなんだよ」
 スパイクは通信機のモニターを見せた。
 その少女こそ、3500万ウーロンの賞金首である、マリアンナ・コルデだったのだ。

  To Be Continued

作/平安調美人

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