プリン賛歌(その1)

 しょうゆをかけたプリン、ハチミツをかけたきゅうり、七味唐辛子をかけてレンジでチンしただけの豆腐、ゆですぎたポテトサラダ、ゆでたジャガイモとマヨネーズをのせたラーメン。

 男はため息をついた。同棲している女が出された料理に、最近になってうんざりしている。
 あの時、こんな女と駆け落ちしなきゃよかったと男は自分がやったことを後悔した。
 今日もしょうゆをかけたプリンをのせたご飯が出された時に、男はついにキレた。
「こんなもので食べれると思ってるのか?!」
 スポ根アニメの一場面のようにテーブルをひっくり返した。
「そ…そんなひ…ひどいことを…」
 女が泣き崩れる。
「せっかく…せっかくあなたのために…一生懸命に…作っているのに…」
 エプロンで涙を拭く仕草に、男はさらに高ぶって、
「こんな犬でも食べれぬようなものを毎度毎度出しつづけて、それでも伝説の料理研究家のお嬢さんかよ?!」
「パパと比べないでよ!!そういうあなただって、大財閥のおぼっちゃんのくせに…」
 男は上着を手にかけて、
「お前みたいな世間知らずといっしょに住むんじゃなかったよ」
 と捨て台詞を残して家を出た。
 女は男の名前を呼びながら泣き崩れた。

 いつもの時間帯に『BIG SHOT』が流れる。
「アミーゴ!太陽系30万の賞金稼ぎのみんな、おまちかね『BIG SHOT』の時間だ!」
「今日もピッチピチの賞金首情報をバッチリお届けするわよ」
「♪と〜れとれピ〜チピチ…」
 歌いつづけるパンチの頭にジュディはハリセンでぶん殴って、
「こんなことだと思ったわ。さて気を取り直して、今日お届けする最初の賞金首は、レオナルド・バーンシュタイン、17才。賞金は3000万ウーロン。彼ったらとってもかわいいのよ」
「かわいさで勝負でいくなら俺の方が上だぜ」
「それは笑えないジョークだわ、パンチ」
「・・・・・・・・」
「次の賞金首は、マリアンナ・コルデ、17才。賞金は3500万ウーロン。高額の賞金首が揃って一攫千金のチャンス、もちろん殺しちゃったら賞金はパーよ」
「結局君1人で番組を進行したんじゃないか」
「パンチ、あなた1人でサムいギャグを連発するからよ」
「おっと、ちょうど時間がきたようだ。今日の放送はここまで!」
「みんながんばってね」
「それじゃGood luck!」

 ビバップ号のリビングで、ジェットはテレビを見た後で、頬杖をついた。
 今日の賞金首の額はともかくとして、かけられた者の年齢がどうも引っかかる。
 ISSPの警官だった頃、彼らと同じ年齢の少年少女が世間を騒がした事件に数多く関わったことがあった。その事件の大半は、何の前触れのない形で起こしているものだった。
 今回の賞金首も何の前触れのなく大きな事件を起こしたに違いないとジェットはふと思ったのである。
 おまけに額も胡散臭い。
「ねえねえ、ジェット」
 エドが台所から顔を出した。
「何だい、エド?」
「れーぞーこにあったエドのプリン、しらない?」
「喰わんほうがいいぜ」
 と言った。
 エドがリビングに入ると、
「ねえねえスパイク、エドのプリン、しらない?」
 ソファーに寝ているスパイクに声をかけるが、
「知らねえよ」
 とそっけない。
「アインはしらない?エドのプリン」
 アインに聞いても首を横に振るだけ。
 ちょうどフェイがトイレから出てきた。
「ねえフェイフェイ」
「何よ、軟体動物」
「エドのプリン、しらない?」
「ああ、もう喰ったわよ」
「ええ?どうして?」
「いい、エド?働かざる者、喰うべからず。自分のエサは自分で確保するのよ」
 とフェイが言った後で、

 ぎゅるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・

 急にお腹に手を当てながら、トイレに駆け込んだ。
「よかったな、エド。プリンが喰えなくて」
「どうして?」
 ジェットが左手で何かを持ち上げた。空になっていたプリンの箱だった。
 そのプリンの賞味期限が一週間前の日付だったからだ。
 エドはすぐにすねた。
「それよりエド、今回の仕事がうまくいったら、プリンをたらふく喰わせてやるぞ」
「えっ?ほんとう?こんかいのおおきい?」
「ああ、さっき『BIG SHOT』でやっていた賞金首レオナルド・バーンシュタインとマリアンナ・コルデの二人の家族構成、経歴、その他もろもろを調べてくれ」
「アラホラサッサー!」
 とエドは愛用のコンピューターに向かう。ゴーグルをかけ、キーボードを打ち始めた。

  To Be Continued

作/平安調美人

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