ウィルスショック

スパイクの場合

今日はどうも調子が悪いと思ったら、どうやら風邪を引いたらしい。毎日のトレーニングは欠かしてないんだが・・・。
昨日賞金首を張ってたとき、クーラーのきいた部屋に4時間も居たのが原因だろう。頭は痛いし、鼻水が出っ放しで息が苦しい。朝起きてどうにも体がだるいんで、1日中リビングのソファーで横になってる。
「・・・冷房は『弱』でいいんだよ」
誰に言うでもなく俺は不機嫌に言い捨てた。
コツ、コツ、コツ。
ヒールの靴音が聞こえてきた。
フェイのやつが帰ってきたらしい。顔が見えたとたん、すごい勢いで俺へ文句をぶつけてきた。
「アンタ、こんな時に何してんのよねー。おかげであの賞金首、ほかの連中に取られちゃったのよ」
マジでむっときた。何だよ、いきなりそれかよ。こっちは病人なんだぜ。そんな事言われたってしょうがねえだろ?第一、誰の腕のせいで横取りされたか、よく考えてみろよ。 俺はそう言おうとしたが、熱のせいか口を開くのが重労働に感じられた。
結局、一言言うのも面倒くさくなりフェイに背を向けて目を閉じた。フェイはまだ何か言っているようだが、もう俺の耳には入ってこない。

「クーラー4時間でへばるたぁ、スパイク、お前らしくないな」
今度はジェットがキッチンから顔だけ出して言った・・・と思う。フェイの声はともかく、ジェットの言葉もハッキリと聞き取れない。・・・これはマズイ。
俺はおもむろにポケットから体温計を取り出し計ってみると・・・駄目だ、デジタル表示がぼやけて見える。
「そういえばお前、ちょっと前に漢方薬っての使ったじゃないか。あれ、どうなんだ?使わんのか?」
そうか、その手があった。俺は重くなっている体に鞭打って、ふらつきながらも部屋に漢方薬を取りに行った。何処に置いてたか・・・おっと、こんな場所に。意識がもうろうとして置き場所を忘れそうだった。そろそろ本当にまずいかもしれない。薬箱を手にした俺はそのままリビングに戻ってソファに、今度は腰掛けた。
「ちょっとぉ、また漢方なの?あの牛乳拭いた雑きんそのままにしといたやつ?」
階段に腰をかけていたフェイが待ち構えたように言い放った。・・・だったらここに居るなよ。
フェイには構わないように、薬箱の中をあさった。頭がないトカゲの干物、しっぽの針がないサソリ酒、ケープの緑色の粉末、しかも箱の中にこぼれてやがる・・・。青汁とはよく言ったもんだ。
「クゥーン」
いち早く匂いを感じ取ったのか、そそくさとアインは逃げていった。俺といえば鼻が利かなくなっているらしい。
「わーい!たべものー!エドおなかペコペコぉ」
アインと入れ違いにソファの後ろからエドが現れた。エドはソファを飛び越え、俺の前にあったトカゲの干物を掴んで目を輝かせている。そして、
「いっただっきまーす!!」
お、おい!そりゃ俺のもんだよ!バ、バカ!勝手に…。
俺が言い終わる前に、エドに異変が起きた。
エドは口を押さえている。どうやら吐き気に襲われている様だ。そのままの姿勢でエドは洗面所へ走っていった。
「そんなに不味いのか・・・」
「あれは不味いぞ・・・」
振り向くと俺の言葉をほぼ繰り返して、ジェットが立っていた。
「お前も飲んだことあるんだろ?」
「ま、良薬は口に苦しっていうだろ」
苦すぎなんだよ、とジェットは吐くような格好をした。
「まあとにかく飯だ。お前にはお粥ってやつ作ったぞ。風邪引いた時はこれだって死んだ婆ちゃんが言ってたぞ」
そう言って、小さな方手鍋を持ってきた。
「あぁ、助かる」
こういう時はジェットは心強い。
俺の目の前で引きつった顔してるフェイは女としては失格だな。そんな事を考えつつ俺はお粥を口に運んだ。

「!!」

何だ!!これ何なんだよ!!
俺はいったい何を食べたんだ。ジェット、俺に何食わせたんだ・・・。
ひとくち口に入れただけで、全身を機関銃で撃ち抜かれたような感覚が走った。
そしてそのまま俺の意識は遠のいていった。
「よく口に入れるまで気が付かなかったわね」
呆れ顔でフェイが言っているのがかすかに見える。
「うーむ、トカゲの頭とサソリの尻尾とケープの味はやっぱり最悪か。まぁ、良薬口に苦し…しっかしいくら不味いからって意識なくすとはなぁ」
そうだ、鼻詰まってたんだよ、俺。早く気付くべきだった・・・。
「何いってんのよ。コイツ本当は高熱で倒れたのよ。さっき体温測ってたの見たら、40℃はあったから」

結局どちらが正しいかはわからないが兎に角、俺の意識は途絶えた。


その後、スパイクは薬箱を倉庫に封印したらしい。

  An efficacious medicine tastes bitter.


作/Can.T

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