今年のベストオンラインソフトには「私のリアルは充実しすぎている」を選ばせていただいた。本作品は女性向け恋愛アドベンチャーゲームだが、登場人物が生き生きと描かれたシナリオがおもしろく、ラブコメに抵抗のある人でなければ、男性でも十分に楽しめる内容となっている。グラフィックやBGMのレベルも高く、操作性も抜群。フリーソフトであることが信じられないレベルの作品に仕上がっている。ゲームの主人公は「姉崎希美(あねさき・のぞみ)」。難関私立の笹寺院高等学校で生徒会副会長を務める、常に明るく礼儀正しい少女だ。生徒会役員のみならず、学級委員や学外ボランティアなどにも積極的で、学園中の生徒はもちろん、先生方からの信望も厚い。顔よし、頭よし、性格よしと、三拍子揃った完全無欠の優等生として周囲からは認識されている。
だが、そんな希美の実態は、三度の食事よりもアニメやゲーム(とりわけ乙女ゲーム)が大好きで、三次元には興味のないオタク少女。ゲームキャラの「ヴァルト」様をこよなく愛していた。
そのことを知らない周囲は、一学年上のイケメン生徒会長「星名瑞穂(ほしな・みずほ)」と希美の関係を噂し、学園公認のカップルと見なしていた。しかし、希美にとって生徒会長はあくまでも憧れの王子様。自分の汚いところをすべて隠し続けてまで付き合う気持ちはない。何かと頼ってくるクラスメイトや便利に使おうとする先生にはうんざりしつつも、スクールカースト上位に位置し、身近な人間関係にも恵まれ、希美のリアルはとても充実していた……といったところから物語は動き出す。
希美の彼氏候補となる男性キャラは全部で三人。そのうちの一人「倉口歩(くらぐち・あゆむ)」は、希美の中学時代の同級生で現役のオタク。転校生として突如、希美のクラスに編入され、いつものごとく担任に世話を押しつけられてしまう。中学時代の二人に接点があったことは誰も知らないからよいようなものの、倉口はいつもライトノベルを所持し、昼休みや放課後は図書室に入り浸るというオタクぶりを発揮している。しかも無口で、クラスメートとのコミュニケーションを取ろうともせず、転校早々、すでに孤立気味。希美にとっては非常に困った存在だ。
「星名穂積(ほしな・ほずみ)」は、生徒会長の双子の弟。口や態度は悪く、性格は兄とは似ても似つかない。ただし、容姿は、眼鏡の有無や髪型以外は兄とうり二つのイケメン。そのため当初、希美は生徒会長の腹黒面だと勘違いしていた。その誤解はすぐに解けたものの、優等生を演じる希美にとって穂積の印象は最悪。その後も敬遠し続けていた。しかし、とある出来事をきっかけに印象は少しずつ変化してゆくようになる……。
「姉崎隼(あねさき・しゅん)」は、希美の義理の弟。イケメンで手先が器用。何でもそつなくこなす、美容師志望のリア充男子だ。姉弟なので当然、希美のオタク趣味もよく知っている。その上、希美のファッションコーディネイトや朝のヘアメイク、出かける前の全体チェックなども担当。希美の裏表すべてを知り尽くしている。
シナリオの分岐は途中、数ヵ所で表示される選択肢で行われる。相手の気を引くようにフラグを立てて攻略するタイプのゲームではないため、にわか乙女ゲームプレイヤーでも抵抗なくプレイすることができる。もちろん、本物の乙女ゲームプレイヤーに対するくすぐりも充実しており、そちら方面の方にも満足できる内容だ。後日談SSやシーン回想などのオマケも充実。隅から隅までとことん楽しめる、絶対にお勧めのハイクォリティゲームだ。