「時の故郷」は、小説を読むような感覚で物語を楽しみながら、その中に隠された謎や仕掛けを解き、真のハッピーエンドを目指すノベルタイプのアドベンチャーゲーム。主人公は、なんとなく無為な日々を過ごしているごく平凡な18歳の浪人生。彼は夏のある日、いまは亡き祖母の家の片づけをするため、6年ぶりに故郷を訪れる。そこで思いがけず再会したのが、幼い日にある約束をしたまま会うことができなかった初恋の少女だ。

6年間のブランクを埋めるかのように急速に接近する二人だが、実は彼女には重大な秘密があった……という筋立て。ゲーム内での日数は4日。この僅かな日数の中ですべての謎を解き明かし、12種類のエンディングの中にたったひとつだけ用意された真のハッピーエンドを目指すことがゲームの目的だ。

ゲームはJavaScriptで作成されており、Webブラウザ上で動作する。ゲームモードは640×480の解像度専用の「IEフルスクリーン版」と、それ以外の解像度用の「通常版」の2種類から選択できる。

操作は非常に簡単。画面上に表示されるメッセージを読んで物語を楽しみ、選択肢が表示されたら、適切と思えるものをクリックして選ぶだけだ。物語の進行は、画面上のメッセージ表示部をクリックすればよい。マウスポインタをゲーム画面上部に移動させるとメニューが表示され、そこからゲームのセーブやロード、メッセージのスキップ、ヘルプ表示、環境設定などの操作を行えるようになっている。

ハッピーエンドを見るための条件設定はわりと厳しめだが、意地悪なひっかけの類はなく、ストーリーの随所にヒントが隠されているので、きちんと考えて素直にやっていけば必ず解けるだろう。ゲームが終わったあとに、「おまけ」としてヒロインが登場して、解決のためのヒントをくれるコーナーがあるのもうれしい。それ以外にも、ゲームの終了後、条件を満たしていると表示される隠しメニューがいくつか用意されているので、ぜひ頑張ってプレイしてもらいたい。

今回紹介したダウンロード版のほかに、作者のホームページから購入できるCD版もあり、そちらには続編のストーリーが用意されているようなのも気になるポイントだ。

文章を読み、物語を進めてゆくタイプのゲームは、最近では大半が「ノベル」という形式で占められています。ユーザはただ物語を読むだけ、ゲーム中に登場する選択肢は、ただ準備された世界のうち、どれを読むかを決めているに過ぎず、結局「正しい選択」と「間違った選択」を見極めるだけのものになってしまっています。特に個人制作のフリーソフトの場合、物語の規模も小さく、結末が少ししかないため、選択肢の数はさらに少なくなり、エンディングまでに片手の数くらいしか選択しない（あるいは選んでも何も変わらない、ゲームオーバーになって足止めする程度）ものになりがちです。

本来の「アドベンチャーゲーム」は、準備された道を選ぶものではなく、目的を達成するための道を自分の力で切り開くものです。しかし、その道を模索する作業が「コマンドの総当たり」とか「同じ行動の反復」といった無味乾燥な作業である作品が多いため、「アドベンチャーゲームなんて面倒臭い」という印象ができてしまったのでしょう。

この作品では、状況に流されて生きてきた主人公が、初めて自分の力で運命を勝ち取ろうとして成長を遂げる物語を描いています。自分の力で道を切り開き、困難に正面から立ち向かう主人公の成長は、そのままプレイヤーに反映されているのです。

受動的な、ただ読むだけのゲームからの脱却。自力で困難と戦って、目的を達成することの喜びを味わうこと。そのためにこのゲームは「ノベル・アドベンチャー」という形式──つまり、ノベル型の表現方法を組み入れた、紛れもなく正統派のアドベンチャーゲームであることを選択しました。

開発中に苦労した点
このゲームは、ブラウザ上でプレイする形式となっています。JPEG画像の高圧縮率、データ量という点でFlashによる動画が大変有利であること等が主な理由ですが、やはりブラウザや機種による違いは大いに苦しめられました。推奨環境はWindows＋IE 5.5以降ですが、Netscapeでもプレイできるように調整しなければならなかったので、相当開発時間が延びてしまいました。しかしやはり、IE版の方がエフェクトが多彩で、しかもシステムが安定しているので（Netscapeはブラウザ本来のバグでよく落ちます）、できるだけIEでプレイすることをお勧めします。なお、Mac版はホームページの方で公開しています。

ユーザにお勧めする使い方
前述の通り、このゲームは至って硬派なアドベンチャーゲームです。恋愛ゲーム的な外面で装ってはいますが、それはとっつきやすく感情移入しやすくするための方法論であって、いとも簡単に感動する物語が読めるといったものではありません。むしろ、困難を乗り越えたという実感がともなってこそ、このゲームの真のエンディングは最大の感動をもたらします。そのときこそ、自分の力で運命を変えたという実感が、物語の感動を何倍にも大きくしてくれるはずです。

私のホームページにはヒントも掲載されていますが、できるだけ自力で謎を解き明かすようにしてみてください。感激もひとしおのはずです。

今後のバージョンアップ予定
フリーソフト版「時の故郷」は、基本的にこれで完結ですが、オリジナルCD-ROM版「時の故郷」を私のホームページで販売しています。エンディング後の後日談、本編と同等のボリュームがある追加シナリオ、デジタル録音のBGM、おまけゲーム等を満載した内容になっています。特に、本編をプレイした人にこそプレイしてほしい、追加シナリオは必見です。もう一人のヒロインが物語を発展させ、新たな視点から主人公の成長劇を完成に導く内容です。本編をご覧になったあとは、ぜひ挑戦してみてください。