Another Cowboy Story No.3
ファッティ

 賞金稼ぎのなかでも、それぞれのスペシャリストがいる。ナイフ投げのうまい奴、銃の早撃ちがすごい奴、外科手術の優れた奴。そのなかでも、カウボーイにとってあまり意味の無い特技を持つものもいる。プラモデル組み立て太陽系一の奴、円周率を89億桁まで覚えてる奴、料理のうでが一流の奴…そして、よく食う奴。

 小学校の頃、彼はこの名前は気に入っていなかった。むしろ、名付け親を憎んでさえいた。しかし、今では彼は、自分にピッタリの名前だと思っている。彼の名前は、ファッティ・リバー。名前のとおり、太っていて、まさに骨付きの肉だ。そして、多少美食家だった。

 以下は彼のある1日の日記の抜粋である。


 あるときある友人から、あそこの星だけは、なんの特産物も無い。お前が行っても満足する食べ物は無いだろう。と言われたことがある。しかし、そう言う友人が少し許せなかった。まるで、美食家な奴がただそこにあるうまいモノを食う、と思っているような口調だからだ。
 本来の美食家というのは、自分でうまいモノを探すべきなのだ。誰もが食ううまいモノを食って満足している美食家は、まるでなんもわかっちゃいない。
 そんなこんなで、早速俺は衛星「イオ」に向かった。

 ついた時、俺の腹のなかには、2日前に食った某コンビニの新製品「キムチおにぎり」しかなかった。うまいものがすぐに見つかると思ったからだ。あまかった。目の前に広がるのは砂漠ばかりだ。

 あいにく持ち合わせの少ない俺は、仕方無しにこの星の賞金首情報を見ていた。しかし、こんな辺鄙な星には、あまり賞金首がいないようで、ドミノ・ウォーカーという違法キノコブローカーだけだった。とりあえず、町まで歩いた。

 町に行く途中スイカを売っているオヤジがいた。1000ウーロンは少し高いな…と思いながらマネーカードを差し出すと、現金のみだといわれた。俺は小銭入れをあさる。982ウーロンしかなかった。くそ、あの時「キムチおにぎり」じゃなくて「キムチあんまん」にしとけばよかった!

 町までとぼとぼ歩いてる俺は、もう、汗びっしょりだった。知っているとは思うが、太っているとその肉自体が暖房となりうる暑さだ。それにより新陳代謝が活発化して、汗がどんどん出るのだ。よって、俺くらい太っているとトイレの回数も少なくていい。しかし、最近は糖尿を患っていて多少トイレに行く回数も増え、普通の人は、なるほど、こんなにもたくさんトイレに行くものなのか、と思ったほどである。なぜこんなことを話すのかと言うと、つまりは今トイレに行きたくなってきた言い訳である。

 人にぶつかる、もしくは膀胱の部分を人に押されるともうだめというところまで来たのでとりあえず家具屋のトイレを借りた。そこの窓の外にいるのは、ドミノ・ウォーカーだった。奴はホットドックを食っている。俺はまだ途中なので、なんとももどかしいと思っていたら女の子と犬の声がした。見ると赤毛の女の子がドミノの周りをぐるぐる回っている。
 と、そこへ今度は、おもしろい髪形の男がやってきた。なぜか白い棺桶を持っている…が、それはすぐに車に轢かれこなごなになった。男には悪いが少し笑ってしまった。すると、銃を取り出した。かなり大きめのものだ。ドミノは逃げて行ってしまった。糖尿なので俺はトイレが長かった。
 手も洗わずにそとに急いで出ると、もうそこには誰もいなかった。あるのはキノコだけである。その時の俺は空腹と、違法キノコの味が知りたいという美食家意識によって、回りを2、3度見回した後、それを2、3個拾って持ちかえったのだった。

 早速、さっきの売店で買ったバター(350ウーロン)と一緒に炒める。それなりの香だ。しかし、俺も賞金稼ぎの端くれだ。麻薬で人生の修正がきかなくなった(むしろ、もう修正どころではなくなった)人間の話などは山ほど聞いたことがある。俺はこれに手を出してよいのだろうか。一瞬のためらい、上品な手つきで(と思ってるのは俺だけかもしれないが)キノコを口に運んだ。
 なかなかいけた。

 さて、ドミノ・ウォーカーを本格的に調査しようと思い外に出たのだが、さっきとはうってかわった世界が広がっているのに俺はふと気づいた。まるで、世の中すべてが生クリームに見えるのだ。
 少し指ですくって何のためらいも無く食べて見る。甘い。生クリームだ。3日間の間にキノコしか食べてない俺は、その生クリームをむさぼった、のもつかの間、やはり胸焼けのようなものがし始めた。そりゃ、だれだって、生クリームを両手にいっぱい食べたら気持ち悪くもなるだろう。大好物だとしても(しかし生クリームが大好物という人も少ないだろう)。
 俺は、飲み物が飲みたくなった。ふと気づくとすぐそこに湖がある。行ってみると、なんと湖の液体はソーダ水だ。なんの疑いも無くそれを口にする俺。のどごし爽やかである。
 本格的にオードブルが食べたくなってくると、突然たくさんの牛が走ってきて、通り過ぎて行った。なんと、そのあとにはステーキがごろごろ落ちている。丁寧に皿にのってしかも、ポテト、キャロット、パセリまでついていて、なんとも彩りがいい。食欲をそそる。それを俺は食った。うまかった。
 次に出てきたのは……………

 ふと気づくと、俺は砂漠の真ん中で口に砂やら雑草やらを口にたくさん含み倒れていた。俺は正直あせった。たくさん食ったもんだからな。実際何を食ったかはわかったもんじゃない。しかし、腹がぶぅとなったのでほっとした。

 あとで、ある友人のカウボーイから聞いたのだが(そいつの容貌はまるですごい。はげていて、ヒゲづらなのだ。今ここで語るべきではないので省略するが、ぜひ、いつかこの日記に書いてみたいモノである。)そのカウボーイも同じような目にあったという。
 そいつの場合は、その幻覚症状の現れた記憶は無いらしい。ふと気がつくと手に口紅を持っていたという。幻覚症状が現れていた時間は俺より長かったらしい(記憶が無くなった時間から逆算して)。俺は、やはりバターを入れたことに何かあったのだろうと思った。が、専門家でもないし、調べるのもおっくうなので、これにはあまり触れないでおこう。

 とにかく、俺はドミノ・ウォーカーを探した。キノコの事件で多少の恨み(というか、むしろ逆恨み)もあったので、いつもより多少熱心だった。そんな時にかぎって普通は見つからないのだが、すぐに見つかってしまった。奴の船らしきところから咳き込んで出てきたのである。そのあとからさっきの赤毛の女の子も出てくる(そう言えば、今となって考えると、この女の子は友人のカウボーイのところにもいたような気がする。)かなり遠くの出来事だったので、俺は急いで追いかけた。
 自慢じゃないが、100Mは11秒台で今でも走れるのだが、1500Mとなると、8分はかかる。短距離が速いのは自分でも不思議だが、長距離はかなり遅い。普通の人と比べれば、成人男性を1人かついで走っているようなものだからな。つまりは全然追いつけなかったのだ。
 踏みきりの近くにスイカが見えた。あまり汚くないスイカをちょいと食べた。「キムチおにぎり」以来のまとも(?)な食物だった。

 あ〜腹が減った。


 こうして、彼の1日は終わった。

  SEE YOU SPACE COWBOY...

作/りゅういち

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