Want it all back T

その時フェイ・バレンタインは市庁舎通りをブラついていた。
『臨時収入』も入ったので何か豪華に買ってみようと思いウインドウショッピング中だった。
この辺り一番の品揃えと言う事なので期待はしていいだろう。
尚且つこの値段である。財布の紐も安心して緩められる。
ブランド品は高さがステータスと思う輩が居るが、フェイの考えはそれを否定していた。
要は機能と美しさである。高いだけなら見向きもしないだろう。
良いブランドと言うのはそこらを配慮しているのだ。肩書きだけではないのは確かである。
だから値が多少張る、ということになる。
しかし、しかしそれが安くなっているのだ。
飛びつくまではいかないが、それは喜ぶべきことだろう。安いからと言ってそのもの自体が変わるか?
安いからと言ってそのドレスは破れ易くなるか?色が変わるか?みすぼらしくなるか?

「いいわぁ コレ。」

品を手に取りため息をついていた。
値段もなかなかである。やはり女性、こういうものを持っていて損はないだろう。
一丁決め込んで買うか。
そう考えたとき、後ろから声が聞こえた。しかもそれは自分に掛けられているらしかった。

『アロー  ミス フェイ・バレンタイン。」

殺気に似たものをフェイは感じていた。意を決し、振り向くとそこには見覚えのある男がいた。

「・・・・・・あんた・・・・・・!?」


「あの女ァどこいった!!」
「知るかっつーの。」

「フェイのヤツ知らねえか!!」
「しらにゃー」

「・・・・・お前は知ってんのか。」
「ワン!!」

「・・・・・・・・・・・あの女ときたら・・・・・・・!!!!」

ビバップは朝から騒がしかった。それはある出来事が原因となっている。
それは時々ある事なので慣れれば良いものを、慣れずにいつも通りの反応をする男が居るから
ビバップは静かではなかったのだった。

そう、フェイが金を持ち出すのは時々あることだった。
しかし度々金を盗む、ということは度々反省すべき事がある、という事だ。
しかもジェット・ブラックは元刑事だ。毎度盗まれるんだったら
保管に気を付けるべきではないだろうか。
だがジェットが幾ら気を付けようともフェイは見つけ出すだろう。
そしてその度ジェットは怒りを露にする、ということになる。

「いい加減慣れろよ、お前 」
「金盗まれる事に慣れてどうすんだよ!!俺ぁ精神異常者じゃあねぇんだ!」

こうなるともう歯止めが効かない。
尋ねられた事、聞かれた事は殆ど怒りながら答えるようになる。
スパイクはそういうジェットには慣れていた。


午後になり、アテの無いビバップの面々は個々の趣味に興じていた。
ジェットといえば盆栽の手入れをしていたが、
さっきからその手は止まっていて、眉間には深い皺が寄っていた。
多分金の事で頭がいっぱいになっているのだろう。

「あっ!!!!」

手元が狂ってしまった。
雑念を持ちながらこういう事をするとロクな事にはならない。

「畜生! やめだやめだ!!」

鋏みを放り出し、ジェットは部屋を後にした。


リビングが何やら賑やかだ。多分エドだろう。
まったく、人が沈んでいるときに。子供は人の気持ちを察しないからイヤだ。
という事を考えていたが、様子がおかしい事にジェットは気付いた。

誰か居る。

エドは一人で騒ぎそうだが、声が多い。スパイクな訳は無いだろう。
アイン? いや、人の声だ。
まさか・・・・・・・・


「よくノコノコ帰ってこれたな、 この女ァ!!」

ジェットは勢い良く怒鳴り込んだ。
しかしそこにいたのはフェイではない人間だった。

「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・と・・・・・すまねぇ、・・・人違いだ。」
そう謝るとジェットは部屋に戻っていった。

・・・・・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・・まてよ。

「誰だてめえは!!!」
肩透かしを喰らい少々気抜けしてしまい、思わぬボケをしてしまった。
人の船に勝手に上がりこんでエドと話している。しかも賑やかに。
後半はともかく立派な不法侵入である。しかもナリからして怪しい。
黒いコート、雑に上げてある髪、少々こけている頬、無精髭、そして紅いサングラス。
常人には見えない。マフィアか快楽殺人者の類のようだ。
するとその男はマイペースにジェットの質問に答えた。

「ああ、失礼、ワタクシ ティモシー・コックスという者です。」 

なかなか丁寧な男だな。
イヤ! 違う!!

「何勝手に上がり込んでんだ!おぉい!スパイク!!!!!」

暫くしてスパイクが釣竿片手に降りてきた。

「何だぁ、 一体全体。」
間の抜けた声でスパイクが尋ねた。

「こいつ、こいつだよ。勝手に上がり込んで来たんだ。」
ジェットがやや焦り気味に訴えた。

「・・・・・・おまえ・・・」
スパイクは知っている様だった。
「!!・・知ってんのか?!」

「俺が上げたんだよ。」

「はぁ!?」
今度はジェットが間の抜けた声で叫んだ。


「いいか、こいつぁ俺の船なんだよ。忘れてるんじゃねえのか。」

「知ってるよ。」

「だったらよお、勝手なこたぁすんじゃあねえよ。」

「解ったって。」

「お前はいつも勝手な事ばっかしてっけどよお、せめてこの船だけでは・・・」

「解ったって言ってんだろうがよ!!」

「イイヤ!解ってねえな!!」
「解ったっつってんだよ!」


「おっちゃんの番だよー」

「はあ、成る程。なかなかお強い で す なっと。」

「うーーー・・・・ぽいっと。」

「やややっ そ れ で は わ た し は・・・・・」

「なにやってんだよ手前はよ!!」
長い漫才の様だったがやっとジェットがケリをつけた。

「チェスですが。」
「違う!!」

とりあえずジェットは目の前に居る怪しい
(言葉使いこそ良いが身なりと併せると余計怪しくなるからだ)
男と話し合う事にした。
向かい合うと改めて怖い。ライオンとか、猛獣の恐ろしさではなく、
エイリアンの様な、未知の、潜在意識に潜む恐怖が染み出てくるのだ。
性格は陽気な感じだが、それも余計に狂気をあおる。

「あーーーーー・・・・誰だ。それで何の用だ。」
ヒネリも無く、唐突すぎた質問だった。失敗だったろうか。

「言ってませんでしたっけ?」
ハタから聞くとかなり馬鹿馬鹿しい会話だった。
少なくともスパイクはそう思っていた。

「お前はティモシー・コックス。それは解るが・・」
「ティムでいいですよ。」
何かと人のペースを乱す男だ。
「・・・・・・・・じゃあ・・・ティム。」
「何です。」
「お前さんは俺たちに何の用があるんだ。」

「ありません。」

「・・・・・・・何?・・」

「ですから、ありません。」

「・・・・何がねえんだ?」

「用ですよ。あなた方に対する。」

「・・・・・・・・・・・・・じゃあ何しに来たんだよ!!!!」
遠回りした会話の上、こんな結論だったのでジェットは余計腹が立った。
スパイクは笑いを堪えるのに必死になっていたが、堪えきれずとうとう吹き出してしまった。

「私は、あなた方、えーつまりですね、ミスタージェット・ブラック。あなたですね、それと・・・」
「スパイク・スピーゲル。」
「失礼、ミスタースパイク・スピーゲルそして・・・・」
ティムはエドを見て微笑んだ。
「ああ、そいつぁエドっつうんだ。」

「変わったお名前で。ミスエド、よろしく。」
「こんにちわあーー」

「と、用は無いんです。 あなた方には。」
「!?」

という事は、そういう事になる。

「フェイか!!」
「その通り!!」
男は多少力強く言った。

「私はここに居るというミスフェイ・バレンタインに用があるのですよ!!」
男は熱が入ったのか、その場に立ち上がって叫んだ。
ジェットはその様子を見て引きながら尋ねた。

「・・・で、・・・・フェイに何の用があって来たんだ。・・」

「私はコスモ・セントラル・ファイナンスのティモシー・コックス!!
  ミスフェイ・バレンタインの借金、総額20,300,000ウーロンを
   取立てに来たのですよ!!!」

「はあ!??」
ティムの目はサングラスせいだろうか、
怪しく紅く輝いていた。

  TO BE COTINUED


作/マペット

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