砂の花の歌 vol.1

 その日は格別に暑い日で外には相変わらず乾いた風が吹いていた。昨日ひび割れた唇がまた血を滲ませて痛む、とてもだるい日だったけど、今日も仕事は欠かせない、それじゃないと、今までの苦労がいっぺんにパー。仕方なしに私は作業道具を持って砂に足を取られながら、作業場へと足を進めた。
 砂の星、タイタン。
 かつての木星との植民地争いで、不毛の地はますます不毛になり、人工も緩やかながら減少していっている。住んでいるのはごくわずかな変わり者の人間たち。そして、私もその一人。しかも、こんな星に、プランターを作った、もしかしたら星3番目くらいの変わり者かもしれない。
 家から歩いて5分くらいの所に、白亜の建物がある、頻繁に起こる砂嵐のため、外壁はボロボロだけど、私が財産をなげうってこんな星にたてた、畑。私の唯一の宝物だ。
 プランターの扉に手をかける、と、目の端で何かが鈍く光った。
「?」背筋を伸ばして遠くのそれを見た。よくわからない。まぁ、車か何かが砂を巻き込んで止まってしまったんだろう。ここから町は1000q程離れている、かわいそうに、私の家に、町まで行けるような乗り物はないし、私の家へ定期的に来てもらっている商人も一昨日来たばかり、もし直らなかったら当分ここで立ち往生だ。
とりあえずは迎えにいってあげないと、このままじゃひからびて死んじゃうかもしれない。対砂の簡易スクーターに乗って光の発生地に向かって走る、近づくにつれて、その輪郭がはっきりしてくる・・・紅い、機体。戦闘機?
「・・・・・・・・・・」
 砂煙に目をしばたかせながら、その機体に乗り上げコクピットをのぞきこむ、すると、中に何かもさもさした物が見えた。もう少し視線をおろす、
「!!」
 上目遣いのその目と私の目があって、思わず顔を引っ込めた。何やってんだ・・・。自分に言い聞かせて、そして、また恐る恐る覗き込む。
「だ、大丈夫・・・ですか・・・・」
 コクピットの窓をたたいて呼びかける、閉じたらしいその目がうっすらと開かれる、その他は何の反応もない。これはやばそうだ。青いスーツが血に染まってまだらになっている。
 コクピットを開け男を引きずり出し、背負う、お・・・重い、けど、仕方ない、とにかく、家に戻ろう。

 耕す、耕す、耕す。
 ・・・・・だめだ、やっぱり土はでてこない。でも、なぜかこんな砂の中、「あれ」は順調に育っている。そう思いながら奥にある扉を見つめる。こんなところで育つなんて何の因果だろう。
 仕方なく、商人から買った土をばらまき、砂と2対1くらいに混ぜて畑を広げた。約50メートル四方の畑のうち、開墾したのはまだたった15メートル四方くらい、全く、来る日も来る日もよくやるな、私って、馬鹿なのかも・・・。新しく作った畑に種をまく、これも、育ってくれればいいけど・・・。
 八時間くらい作業をしてから、ようやく腰を下ろした。日はもう落ち始めている、気温も下がり始めた。帰らなきゃと思いながら畑をぼーっと見つめる、すると、まつげに汗が滑り落ちてきた。その汗を拭いながら、ふと、朝に拾ったあの男のことを思いだす。あの後家に持って帰って、傷の手当をしてベットに寝かせておいたが・・・もう起きただろうか。
「帰ろ・・・」
 何か食べさせてやんなきゃ、そう思って重い腰を上げた、足がふらつく。こんな時、いつになっても体力の付かない自分を情けなく思う。
 この星に来て5年、私はまだまだ都会人だ。そのことが意味もなく、悔しい。
 家に戻ると、意外に男はまだ眠ったままだった。なんだか苦しそうだ。そりゃそうか、これだけ傷を負ってるんだ。包帯でぐるぐる巻きの男の体を見ながら、私は溜息をついた。全く、何やってんだよ。たとえ機体がコントロールできなくなって、この星に落ちたんだとしても、ここは砂の惑星、こんな重傷を負うわけがない。それに、この銃創・・・。包帯の下の傷をありありと思い浮かべる、。大した傷だった、打撲、骨折、それに銃創、壊死してないのが不幸中の幸い。本当は病院にでも連れて行くべきだろうけど、前述したように、交通手段がない。
 男の眉間に皺が寄る・・・やっぱりなんだか苦しそうだ。痛みとか、そういうんじゃなくて・・・なんだか凄く、辛そうだ・・・。その時、男の口が微かに動いた、起きたんだろうか、慌てて耳を寄せる、すると、
「・・リ・・ア」
 「リア」?なんだ、どうやら寝言らしい。私は男の顔を見つめ直し、そしてもう一度溜息をついた。こっちまで息苦しくなってくるような寝顔、なんだかたまらなくなって顔を背けた。
 よし、飯作ろう、飯。着替えて台所に向かうことにする。

 ゆっくり食事をとって、ゆっくりシャワーを浴びて、本を読む。毎日の日課を終えてから、寝る前にもう一度ベットルームを覗いてみることにした。
 ・・・相変わらず男は眠っている。側によってベットに腰掛けた、すると、
「・・・!!」
 堅い物がこめかみに押しつけられる・・・何?机に置いておいた男の持ち物から銃が無くなっていることに気がついた私の体中からとたんに冷や汗が吹き出す。なんてドジ、銃をここに置きっぱなしにするなんて。やばい、これは、やばいかも・・・。でも、私の頭の中には何故か「あーあ、せっかくシャワー浴びたのに」なんて、馬鹿馬鹿しい思いが浮かんできた。
「・・・・・・・・・・」
私がそんな馬鹿なことを考えている間も、男は横になったまま、無言で私を凝視していた。
「ちょっと、ちょっと待って、待て、待て、落ち着いて、大丈夫、敵じゃない、たぶん。いや、ホントに。とにかく、危害は加えないから」
 頭とは裏腹に、私の身体は極限なくらい慌てて、とにかく口から言葉を出した。
「・・・・・・・・・」
 男はまだ銃を降ろそうとはしない。
「私はユーリ=レリジオーソ、ここでプラントを耕してるだけよ、今は武器も持ってない、丸腰。だから、大丈夫」
 なんだかわからないけど、混乱して早口で自己紹介していた。すると、男が微かに笑った気がした。やっと銃を降ろしてくれた。
「ここは・・・?」
 少しの間の後、男がかすれた声を出す。
「私の家よ」
 私がそう答えると、男がなんだか不服そうに目を細めた。

 これが出会い。彼との、一つの特別な、出会い。

     <続く>

作/歩致

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