ヤな感じ その6

「わぁ〜、お許し下さい、お代官様!」
 オダイカンサマ?何なのよ、そのセリフは・・・。どっかのチャンバラの見過ぎだわ。
 アタシの怒りゲージが急上昇した。
「アンタら、いい加減に手を上げなさい!」
 引き金を引こうとしたその時、
「ベ〜だ!捕まえるなら、捕まえてみよ、オバサン!」
 ガキンチョがアッカンベーをして、すぐに逃げ出した。だが、不思議なことに猫の逃げ足が遅い。アタシはその猫の足を狙って、銃口を向けようとしたその時、
「ニャ〜ゴ!」
 エドが猫のふりをして、高く飛び上がった。逃げ足の遅い猫の近くまで着地して、素早く追い掛けてきた。
「フンギャ〜!」
 猫より猫らしいエドの威嚇のポーズに、猫は思わず、
「おミャーはアホか?!」
「アホちゃいまんねん、エドでんねん!」
 ガブッとエドが猫のしっぽにかみつく。猫も負けずに爪でエドの顔をひっかく。
 エドと猫のケンカが始まった。
 ようやるわ、まるで猫同士のケンカだわ。
 そんな場合じゃない。
 アタシはスーパーへ逃げ込んだガキンチョ2人を追い掛ける。
 陳列物を壊しながら、ガキンチョは逃げ続ける。野菜コーナーの角に差しかろうとしたその時、
「火星名物ビッグアップルはいかかですか?甘くてジューシーなリンゴはいかがですか?」
 ふと、リンゴの試食のカートを目にする。これなら使えると確信したアタシはそのカートを奪って、反動をつけて前へ突様き飛ばす。
 ボウリングのボウルのように、スピードを上げて、ガキンチョを目掛けて突進する。

 ガシャン!

 カートにぶつかったガキンチョが野菜の冷蔵ケースに頭をつっこみ、カートから転げ落ちたリンゴに足を滑って、ひっくりかえった。
「動くな!」
 アタシはガキンチョの顔に銃を突きつけた。しかも2丁。ガキンチョはあわてて、
「わぁ〜、お許しください、お代官様!」
「2度も同じ手を使えると思ったら、大間違いよ!」
 アタシが引き金を引くと、

 ジャー

 銃口から赤い液体が飛び出してきた。ピリピリピリとくる刺激が、ガキンチョの目に直面した。
「どうだ?特製タバスコ入りの水鉄砲の味は・・・」
 前にやられたものをアタシが仕返しにしてやったのだ。目には目を、歯には歯をとはまさにこれのことなのよ。
「ヤな感じ〜」
 うるうると泣くガキンチョを用意してあった手錠をかける。後はおしゃべり猫だけだ。ガキンチョをひきづりながら、スーパーを出たその時、エドがぐったりとなった猫を連れてきた。
「フェイフェイ、ニャンニャンをつかまえたよ〜」
「でかしたわ、エド。これで3人セットで警察に引き渡せば、6200万ウーロンはアタシのもの」
「じゃ、エドは?エドは?エドは?」
 エドがアタシの腕をつかんでねだる。何度もきくエドをはねよけようとしたその時、
「あの〜、お客様」
 一人の男がアタシを尋ねてきた。
「アンタ誰?」
「私、当スーパーの店長でございまして・・・」

 また翌日、いつもの時間帯に『BIG SHOT』が流れる。
「アミーゴ!太陽系30万の賞金稼ぎのみんな、おまちかね。『BIG SHOT』の時間だ!」
「今日も最新情報をバッチリお届けするわよ」
「まず、火星で盗難騒ぎを起こした『ロケット団』がついに逮捕されたニュースだ」
「え〜っ、あの『ロケット団』が?」
「捕まえてみたら、こりゃビックリドッキリ。何と、火星のハイスクールの14歳の少年少女と、そして1カ月前に失踪した動物サーカスの看板スターの天才猫の『ニャース』であることが判明したそうだ」
「それで動機は?」
「テレビの『ポケモン』や『ルパン三世』などにシビレて、自分も真似してみたいそうだ」
「よい子のみんなは真似しちゃだめよ」
「なお、『ロケット団』を捕まえた賞金稼ぎは、フェイ・ヴァレンタイン、23才。彼女には、賞金6200万ウーロンを支給されたそうだ」
「おめでとう、フェイ・ヴァレンタイン!」
「次の情報は・・・」
 何がおめでとうよ。現実は・・・。

「ジェット、肉のないチンジャオロースってのは、チンジャオロースと言わねえんじゃねえのか?」
 スパイクがジェットに文句をつける。
「仕方ねえんだ。誰かさんが肉まで調達してくんなかったから」
 ジェットは言い返した。
 それもそのはず、アタシが手に入るはずの6200万は、あの時のスーパーの修繕費と、客の慰謝料などとあわせて、みんなスッカラカンのパーになってしまった。
 おまけに、野菜や果物や缶詰もあの店長に押しつけられたのだが、ビバップ号の食料難は何とか免れたが。
 しかし、何でビバップ号の人間って、心が狭くて自分勝手なの?
 それにあのガキンチョは何で最後までアタシをオバサンよばりするの?
 もう・・・

 ヤな感じ〜!!!!

  THE END

作/平安調美人

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