COWBOY BEBOP Jukebox Stories

Another Session03 深い海での出来事
Rhapsody in Deep sea

「まったく、ガニメデにいくなんざ、どういう風の吹き回しだ!?」
 ジェットは少しばかり怒っている。無理もない。本当なら火星にもう少し滞在する予定だった。しかしスパイクが勝手にガニメデに行くようビバップ号にセットしたのである。
「まあ、そういうな。俺の話を聞け」
「聞く耳もたねえよ!この馬鹿野郎!」
「なにぃ!?」
 思わず2人がつかみ合いになろうとしたその時、一人の少年が2人をとりなした。
「まあまあ、まずスパイクの話を聞こうじゃない」
「おう、育ちが良いなあお前」
 スパイクは少年の頭を撫でる。ジェットは不機嫌そうな顔でソファに座った。
 少年はエドではなく、エイジ・クロフォードという名前だ。軍の特殊部隊に改造され、記憶もあてもなくさ迷っていたところをビバップ号の一員になったのである。
「俺が火星で聞いた話なんだが…」
 スパイクが話し出した。ジェットとエイジは並んで話を聞いている。フェイは近くでまずいコーヒーを飲みながら聞き耳を立て、エドは寝ている。アインも近くにいた。
「ガニメデの何処かの海に、お宝が埋まってるっつう話を聞いたんだ」
「馬鹿もやすみやすみ言え。そんな話、誰が信じるってんだ」
「見てみろ」
 スパイクはポケットから何かを取り出す。小さな機械だった。スパイクがその機械のボタンを押すと、何かが浮き出た。
「こりゃ、ガニメデの港の場所を示した地図だ…それがどうしたってんだ」
「だからな、宝があるっていう話をしてんだよ」
「しかしな、あるとしていったいいくらくらいの価値が…」
「大きな箱がたくさんあって、金塊が入ってるらしい。総額、なんと10億ウーロン」
「なんですって!?」
 フェイがコーヒーを持ったまま走ってきた。息を切らしている。
「なんだ、聞いてたのかよ」
「10億って本当なの!?ねぇ!」
 フェイはコーヒーをテーブルにおいて、スパイクの肩を何度も揺らす。
「だから、火星の噂だって言ってるじゃねえか。確か…ガニメデのハンブルグ漁港」
「ソーセージでも売ってそうな名前だな」
 ジェットが冷やかした。スパイクは構わず、
「でも、宝を手に入れたヤツはいないらしい」
「元から無いからな」
「未確認水中生物に襲われるからだそうだ」
「そんなたわけたことを信じるってのか?」
「あたし、のった!」
 フェイが手を挙げる。スパイクはにやりと笑った。そして、
「エイジはどうだ?」
「まー…海ってのもいいんじゃない?」
「ほら、ジェット。どうだ」
「どうだ、じゃねえ。じゃあエドに聞いてみろ」
 スパイクは起き上がって、エドの頭をつつく。
「うにゃあ」
「おいエド。海行きたいか」
「海?行きたい行きたい〜」
 スパイクはジェットの方を向いてほくそえんだ。ジェットは諦めて首を振る。
「まったく…」

 ガニメデは水の惑星である。ただ水の惑星、ということでは地球もそう言えるだろう。だがガニメデは国土のほとんどを水が占めている…いや、国土など存在しない。ここには水上に浮遊する都市があるだけで、後は全て海だ。恐らく星の中心には何かあるだろうが(まさか全て水、などということはあるまい)…とにかくガニメデの都市は全て港があり、ガニメデに住む人は海と接して生きている。何を隠そうジェットはガニメデの出身だった。スパイクとエイジは火星生まれ、エドやフェイはどうやら地球生まれらしい。そうなるとガニメデ生まれはジェットしかいないが、別にそんなことを気にする彼ではない。
 ガニメデの空港に着いた彼らは、そのままハンブルグ漁港まで向かった。すぐにスパイクとフェイ、エイジ、ジェットが降り立つ。
「本当に売ってやがる…」
 ジェットはあ然とした。「ハンブルグ名物 ハンブルグソーセージを使ったホットドッグ」という屋台が幾つも並んでいたのである。
「ホット・ドッグねえ…。あいつ、売り飛ばすか」
 そう小声で言いながらスパイクはビバップ号を見た。とりあえずホット・ドッグ程度なら買うお金はあったので、4人とも買ってみる。
「で…何の話だっけ」
 エイジはホット・ドッグを食べながら言う。味はまあまあだった。
「だから、埋蔵金だよ」
 スパイクがすぐさま返す。エイジは辺りを気にしながら、
「聞き込みつったってなぁ…いや、問題がまだある。誰が潜る?」
「俺んのは無理だぜ。ジェットんのも無理だよな」
 ソードフィッシュUはさすがに海までは航行出来ない。ハンマーヘッドも同様だ。
「あ、あたしも無理よ。水入っちゃうし」
 フェイも大きく首を振る。エイジはため息をついた。
「…仕方が無い、僕のは大丈夫だからさ、空気ボンベでも買ってくるよ」
「良い選択だな。おあつらえ向きに爪もついてやがるしな」
 ジェットは嬉々として言った。その言い方がエイジの気に障ったのか、
「でも、一人で海中散歩ってのも気が引けるね」
 エイジは3人の反応を見る。みんな自分から顔をそらしていた。
「仕方が無い、クジで決めるか」
 スパイクは懐から煙草が入った紙袋を取り出す。ちょうど3本入っていた。
「当たりだったら真ん中に赤い線が入ってる」
 すぐに引いたのはフェイである。しかし顔は落胆し始めていた。引いた煙草には赤い線があったからだ。フェイは反論しようとしたが、往生際が悪いと思ってやめておいた。
「…水中用のモノポッドねぇ…。じゃ、行きましょ」
 エイジはフェイについて行く。スパイクはにやりと笑った。
「しかし、あの女、運が良いのか悪いのか…」
「ただ見抜けなかっただけさ、ジェット」
 そう言うと、スパイクは煙草が入った袋を逆さまにする。そこには中心に赤い線が入った煙草が2本入っていた。ジェットがあ然とする中、スパイクはフェイが取った煙草に火を点け、口にくわえた。

 空気ボンベはすぐに見つかったが、水中用のモノポッドはあまり見つからなかった。モノポッドとは独立した操縦カプセルで、単体でも宇宙を航行出来るマシンである。共通仕様のマシンならばどんな期待にでも接続出来る。モノポッドに搭載されているシステムをモノシステムという。もちろんスパイクのソードフィッシュU、フェイのレッドテイル、ジェットのハンマーヘッド、エイジのデススティンガーにも搭載されている。水中用モノポッドとは、ガニメデで多用される水中マシンに搭載されたモノポッドで、水圧にも耐えられる強固な設備が整っているのだ。
 ようやく見つけたところは、ガラクタだらけのアンティーク屋であった。
「これは15年前の奴だ」
 髭を蓄えた店主はそう言った。背後には、魚雷とガドリングガンを搭載した、ほこりにまみれているモノポッドが置かれている。
「15年前か…」
 エイジはちらりと眺めてから、フェイを呼ぶ。
「入れる?これに」
「酷い骨董品ね」
 フェイは嫌味を言うと、モノポッドに乗り込んだ。ほこりで少し咳き込んだ。中はレッドテイルのモノポッドと同じくらいである。魚雷発射ボタンとガドリングガンの照準・発射ボタン、そしてマジックハンドの操作用ボタンがあった。ま、なんとかなるんじゃないの?とフェイは気楽に考える。「ま、大丈夫」とフェイは小さく言った。
「ところで…こいつの値段は?」
 フェイはマジックハンドを動かしながら言う。店主はにやにやと笑った。
「こいつの値段は…ざっと300万ウーロン」
「15年前のガラクタでしょうが!」
「実は、希少価値が高くてね」
「他に無いの、モノポッドは!」
「あいにくで払ってて」
 しかし10億の誘惑には勝てず、フェイは仕方なく金を払った。

「そうだ、例のエイジの件」
 ガニメデのとあるホテルの一室で、サングラスをかけた男がそう言った。椅子に座っている白い服を着た中年の男は頷く。
「我がシーキャンスラーで始末せよとおっしゃるので?」
 中年の男はそう言った。サングラスをかけた男は頷く。
「殺人機械、エイジ・クロフォードがガニメデに来ているという情報があるのだ。餌に食いついたようでな。始末しなければ威信に関わるのだ、ナビコフ」
「しかし、わざわざあれを使わなくとも…。相手は18歳のガキでしょう」
「見た目はな。だが…感情が高ぶると、殺人機械となる」
「…どういう事で?」
「感情を持たない殺人機械だ。我々がそう教育した」
「感情が高ぶると感情がなくなる…。なるほど、解りましたよ」
 ナビコフはそう言ってにやにやと笑った。

 ビバップに戻ると、アインが海で犬掻きをしていた。
「あ〜、フェイフェイ来た〜」
 エドは浮き輪で遊んでいる。やれやれ、とフェイは首を振った。
 エイジが船内に向かうと、ジェットはモニタを見ていた。スパイクは相変わらずソファで寝転んでいる。何か音楽を聴いているようだった。エイジはモニタを覗き込む。
「良かったぜ。賞金首が一人いたよ、ちょうどこの港町にな」
「へぇ、誰?」
「エルド・ナビコフ。45歳。賞金、1000万ウーロンだ。こいつはガニメデの闇賭博で儲けた男でな、その金で巨大な戦艦を保有してるらしい。組織とも繋がりがある」
 画面に金持ちそうな中年男の写真が映った。
「ま、もしもの保健ってとこだな」
 スパイクが起き上がってヘッドホンを取る。どうやら聞こえていたようである。
「じゃ、そろそろ取り掛かろうぜ」
「…あ、思い出した」
 エイジはぽんと手を叩くと、拳銃をポケットから取り出した。
「これ、12発詰だって聞いたんだけど…どう思う?」
「ああん?」
 スパイクはエイジの拳銃を良く見る。
「…いや、18発だ。多いな…それに銃身も長いし重たいな。反動も凄そうだ」
「ああ、そう…名前は?」
「ここにブロッケンって書いてある。それがどうかしたのか?」
「いや…なんでもない」
 スパイクは狐につままれたような顔をした。
「来た来た、遅いわよあんたたち」
 外に出るともうフェイが水中用モノポッドに入っている。ジェットがちらりと見て、
「こういうことには素早いんだな」
「お互い様でしょ」
 エイジはポケットにブロッケンを突っ込み、デススティンガーに乗り込んだ。デススティンガーが浮遊して、モノポッドを下に抱く。
「ボンベはこことモノポッドにくっついてる。無駄に空気を使わないようにね」
 エイジは優しく言った。フェイはしかめ面でそれに応じる。デススティンガーが水中に入っていった。デススティンガーは水中に深く潜行する。エイジはライトをつけた。
「深いわね…」
 フェイは辺りを見渡して言う。底すら見えない。見えるのは岩肌だけだった。
「ん…?」
 下の辺りで水泡があがった。地鳴りのような音も聞こえる。フェイは体勢を起こし、下が良く見えるようにした。良く見ると何か黒い影が動いている。どう考えてもそれは10億ウーロンだとは思えなかった。2つの大きな光も見える。
「あれ…10億じゃないわよね」
「何だろうね…」
 エイジとフェイは顔を見合わせた。2人とも青ざめている。
「どうした?」
 スパイクの通信だ。フェイは顔をしかめている。
「変なのがいるわよ」
「魚か何かだろ」
「でかいわよ」
 フェイは通信を切った。エイジはフェイに通信を入れる。
「もう一度泡が出たら、逃げるぞ」
 そう言った瞬間に、また海底から泡が出た。エイジはそれを確認して右に避ける。巨大な魚が水中から飛び上がった。その姿はビバップ号からも確認さされた。
「スパイク!なんか飛び上がったぞ!」
「魚だろ」
「モニタを見てから言え!ありゃ…機械の魚だよ!」
「おさかなおさかな〜」

 デススティンガーは巨大な魚の真横にまわっていた。全体像が見える。
「シーキャンスラー…って書いてある」
「のん気なこといってる場合じゃないでしょ!」
「応戦したいが水中じゃ攻撃できない」
「馬鹿!逃げるのよ!」
 デススティンガーは急旋回する。しかしシーキャンスラーは追いかけてきた。ポッドを抱えている分、デススティンガーの速度が落ちてしまっている。
「今からポッドを外す」
「はぁ?何言ってんのよ…まさか、おとりになるっての?」
「たぶん僕を狙ってる。一旦離れる」
「ちょっと!あんた死ぬ気なわけ!?」
「死ぬのは怖くなんかない」
 フェイの意思確認もしないまま、エイジはポッドを離した。水中用のモノポッドは1体だけでは動けないので、フェイはそのまま水上に上がった。

「お、フェイだけ上がってきやがった」
 ポッドが浮上したのはすぐにビバップ号で確認された。スパイクはすぐ通信を入れる。
「おい、あいつはどうした?」
「離したのよ、あたしだけ!」
「あぁ?一人であのデカ物と戦うってか、あの馬鹿!」
 スパイクはまたソファに寝転んだ。身体を動かしたいのだがそうもいかない。水中服などビバップ号には無いからだ。
「データ出た出た〜」
 エドが悲鳴をあげる。ジェットはディスプレイを覗き込んだ。
「このお魚はね〜、もともとガニメデ政府が作った観光用メカなのな〜」
「観光用だと?それが盗まれて改造されたってのか?」
「どうやら組織が関わってるみたいなのな〜」
 スパイクが起き上がった。
「どうやら、俺たちはとんでもない物を釣り上げちまったらしいな」
 スパイクはため息をついた。ジェットは腕を組む。

 エイジはデススティンガーを自動操縦に切り替えると、水深が低いことを確認して水中に入った。火薬が濡れないように銃は排水性のバッグに入っている。少しして、シーキャンスラーの出入り口が見えた。そこをこじ開けて中に入る。中に入るとすぐに排水され、乾燥機にかけられたような気持ちになった。
「奴が侵入したようです」
 シーキャンスラーの司令室で、ナビコフは部下から報告を受けた。
「何だと…。すぐに追いかけろ。いいか、生け捕りだ」
 マシンガンを持った男たちが数人通路から出て行く。すぐに銃声が響いた。
「敵は6人…ワクワクするねぇ」
 隠れながらエイジはそう呟く。強がりではない。自分でも、戦うことが楽しいとは感じていなかったはずである。いままでそうだった。それが、極度の緊張感によって、何かが蘇ったようなのだ。
 エイジは拳銃を持って立ち上がると、近づいて来た男達に撃った。数名が倒れたのでエイジは走っていく。もう司令室は目の前であった。エイジはドアを蹴破る。
「刺客か?」
「雇われただけだ…殺人機械君」
 エイジは拳銃をナビコフに近づけた。拳銃は脳天に向けられている。しかし奈彦不はまったく動じないばかりか、さらにエイジを挑発しようとした。しかし、エイジの鋭い目に鳥肌が立ち、がたがたと震えだした。
「誰に雇われたんだ…?」
「知らんな」
「そうか。じゃ、お前も生きてる必要は無いな」
「ま、待て!…埋蔵金は無い。あれは組織が流したデマだ」
「そんなことを聞いてるんじゃないんだよ」
「…タナトスだ」
 エイジは拳銃を離した。それを狙ってナヒコフは後ろから水中用の銛を撃つ銃を取り出し、英字に向ける。しかしエイジはその手首をつかんだ。銃はあらぬ方向を撃つ。銃が突き刺さったのは、あろうことか全面の強化ガラスであった。そこから海水が流れ出す。エイジは一回転すると猛然と走り出した。シーキャンスラーの目の光はショートして消える。
「ちくしょう!」
 エイジは海水に飲まれながら泳ぎ、デススティンガーにたどり着くとすぐに上昇した。デススティンガーが水面から飛び上がり、すぐ近くの地面に着地した。
「お金は?」
 フェイは安否を気遣うまでも無く、金のことを気遣った。エイジは首を振った。

「まったく…」
 ジェットはエイジの手当てをしながらため息をついている。軽い傷のようだ。
「こういうのをな、骨折り損のくたびれもうけってんだ。解るか?」
「解るかよ、ちくしょー」
 スパイクは寝転んだままそう答える。隣ではフェイが煙草を吸っていた。
「あんたのせいで、どんな目にあったのか知ってんの!?」
 フェイはスパイクを指差す。スパイクは別に顔色を変えず、
「ま、ホットドッグを食えたんだから…」
「余計な出費じゃないのよ!」
「たまには失敗もするさ、それが人生」
 フェイは立ち上がってどこかに行ってしまった。エドはつまらなそうにしゃがんでいる。エイジは煙草を取り出すと、ライターで火を点けた。そして上手そうに煙を吐き出す。
「おいしい?」
 エドが眠そうにエイジに聞いた。エイジは首を振りながら、
「全然」

  He is SmokingBoy…and You?



作/デルタ

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