The memory of the Rose

「殺せって言うの?あたしに?」
「強制はしない。おまえが組織を裏切る覚悟があるなら、好きにするさ。」
二重に裏切る相手の顔を思い浮かべる。スパイク。
疲れた。情事の後で虚しい気分になるのは今に始まったことじゃない。
隣の男は黙って煙草を吸っている。この男の前では私はただの娼婦だ。そしてスパイクは私を女神のように扱った。どっちも私であり私ではない。
「命令に背いて組織を抜けるなら俺がおまえを殺す。」
何の感情もない声で男は言い、私の頭に銃口を当てる。こっちも何の感情もわかない。恐ろしさに震えるのは男が帰って我に返ってからだ。
あざ笑うような笑みを浮かべて男は立ち上がる。闇に浮かぶ男の裸体は大きくて、怖い。
私は無力だ。いつだってそうだった。

男が帰った後、私はブランデーを一本空けた。飲みながらスパイクのメモを読み返す。文字がにじんでくる。彼がもうちょっと大人だったら。そしてもうちょっと打算的だったら。でもそれでは彼が彼でなくなる。今のスパイクに私は魅かれた。今更いいわけのしようもない。
小窓に近づき鎧戸を押し開ける。外は雨だ。暗い天気は気分がますます滅入ってしまう。スパイクからのメモを細かく破って窓から外にまく。紙が雪のように外に舞い散る。
テーブルの上の一輪挿しの薔薇を取り上げる。最後にスパイクがくれた。赤い、赤い薔薇。あの人の前ではこういう女でいたかった。打算的だと笑っていい。結局私は惨めな娼婦だ。薔薇をテーブルの上に置き、小さな鞄を持ち、ドアを開け、最後に部屋を振り返る。
「さようなら、スパイク。」
ドアを閉め、鍵を掛ける。私は二度とここには戻ってこない。
夢は終わったのだ。

作/亜巳

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