シャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件

    トーワチキ/ファミコン/アクション


 わかったわかった。私も参加します。まったく、みんなが実に楽しそうにこの話をしているかと思うと、いても立ってもいられなくなってしまった。何のことかと言うと、ホームズのゲームです。
 ことの起こりは、10年前にやった「ホワイトライオン伝説」というファミコンRPGでした。これはホームズと何の関係もないのですが、ただその余りの内容のひどさに今でも我が家では語り草。それが、ある日ふと思い出して、それをインターネットの検索エンジンにかけてみたのです。そうすると、どうやらこの「クソゲー」というのはネット上でジャンルの一つにまで発展しているらしく、あちこちのホームページで取り上げられているんですね。で、その中でも最高クラスのクソゲーにまで「殿堂入り」しているのが、「たけしの挑戦状」と「シャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件」なのでした。
 思えば10数年前、団地に当選してファミコンが自由に出来るようになったのが始まりでした。近所の玩具屋で「伯爵〜」を見掛けて購入し、そのあまりのむずかしさと莫迦らしさにまるっきり前に進めず、あっと言う間に投げ出してしまったものです。当時ファミコンは飛ぶ鳥を落とす勢いで発展し、そのためにどうでもいいようなゲームも大量に出たのですが――開発に手間隙がかかるコンピュータ・ゲームに、更にチップに焼き込むという手間を考えると、普通はひどいゲームは企画段階で止まると思ったのが甘かった。どうしてあれが出版されてしまったのか、今以ってさっぱりわかりません。ただ、それにしても前述の「ホワイトライオン伝説」があまりネットで取り上げられていないことを考えると、こちらはあちこちで話題になっている分、ある程度は売れてしまったのでしょう(サイトによっては、「ファイナルファンタジー7・8」をクソゲーにしています。有名税ですね)。
 ということで、一応私も何か言いたくなってしまったので、勝手なことを書き連ねます。このゲームについてお知りになりたければ、ネットでの話題には事欠きません。さあ、あなたもヤフーgooに言って、「伯爵令嬢誘拐事件」を検索してみよう!
 そうだ、一つ忘れていました。ホームズのゲームには立派とは言えないまでも、そこそこ楽しめるものはちゃんと存在します!

 さて、パッケージを見る限りでは結構まともですね。「アクション&アドベンチャー」ってのも悪くないような気がします。しかし始めてみると――完全なアクションじゃねえか。だいたいホームズとアクションが結び付くってのがわからないでしょう? もう言い尽くされている事なのですが、これは要するに「自分以外は全て敵」というアクションゲームの基本に忠実にやっただけなのです。マリオだって、地上や城の中を行く時は、動くものすべてこれ敵、ですよね。
 ただ、これは敵の城の中や洞窟ではなく、ロンドンの街中での話です。ホームズ、ついにロンドン市民を敵に回したか、という感じで、警察すら助けてくれません。ずいぶん変な設定だと思われますが、考えてみれば当たり前の話で、そもそもアクションゲームってのは敵地で進めるものです。だって、そうしないとアクションすること自体がなくなってしまいますから。それでも変化球として、最初は味方の陣地で情報集めしてから敵地に乗り込むというのも考えられなくはないけど、もしもホームズでそれをやるなら、モリアーティが悪の根城に閉じこもって伯爵令嬢を誘拐し、それを助けに行くとか言うストーリーになるでしょう。途中の中ボスがジョン・クレーとかミルヴァートンになるといいな。でもこれって、ホームズと何の関係もないゲームにした方がいいですよね。つまりそもそも、ホームズがアクションに向くはずがないのです。
 このように根本的に間違った企画であるだけでなく、敵の団体名が「パハイヤ団」だったり、「推理力」(敵を蹴飛ばして倒すと上がる)という意味不明の数値があったり、これほど話題に事欠かないゲームも珍しい。それでも変であるだけならともかく、謎解きがあまりに難しいというか、まるでヒントになってないので、さっぱり先に進めないのです。ホームズクラブの会報で上がったという話を聞いた事はあるのですが、それも攻略本の助けを借りて「普通には絶対わかるはずもない」謎を解いての上だそうです。もちろん、その人もこのゲームは全然誉めてませんでした。そう――とにかく誉める所が一つもないのです。これは一つの奇跡です。

 ただ、よくパッケージを見ると、「PART1」の文字がある! それに中には、「PART2製作中」と書いた紙が入っているではないか(「待望」と書いてあるけど、そもそもPART1の中にこんなことを書くのは変ですな)。実際この後、トーワチキは「名探偵ホームズ 霧のロンドン殺人事件」(右)、「Mからの挑戦状」と続けることになります。ということは、最初からシリーズだったのか。でも、こちらはただの推理アドベンチャーです(私は、その中でマイクロフトが弟に向かって「ホームズ」と呼び掛けたのでこけてしまい、続けていませんが)。さすがに反省したというか何と言うか。

 ともあれ、「伯爵令嬢誘拐事件」は、ファミコンの歴史に燦然と輝く超クソゲーとして長く歴史にその名を留めるでしょう。少なくとも、今私がやってるように、このインターネットというメディアでアマチュアが好き勝手なことを書ける限りクソゲーの話題が尽きる事はないでしょうから。実際、私が何でこれを書いているのかと言うと、他のホームページではみんなよほどこの手の話が好き(もちろん私も大好きです)らしく、あちこちにクソゲーのサイトがあり、自分もどうしても何か言いたくなってしまったからに他なりません。それにしても、どうしてこのゲームがちゃんと出てしまったのでしょう。誰か思いとどまろうと言った人はいなかったんでしょうか。

宇宙暦32年9月3日)


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